「ふわぁぁ」


あくびをしながら、胸元まである長い髪をコテで緩く巻き、片側に編み込みをつくる。

ヘアセットが完了したら、全身鏡の前で制服をチェックして……うん、いい感じ。

シックな黒いワンピースに、胸元に大きな白いリボンが咲くこのセーラー服がお気に入り。


寝る間も惜しんで勉強をし、見事学費免除の特待生となり、今こうしてこの制服を着ることができている。


パジャマ姿から女子高生へと変身完了。

わたし、中町由瑠(なかまち ゆる)は鏡の前でにっこりスマイルを作る。


今日も無事に終わりますように。

笑顔でいればきっといつか幸せになれるはずだから。


準備を終えて、思わずクセで「行ってきます」と言いかけて、ひとけのない家の中を見る。

……そうだ、だれもいないんだった。


わたしはこの小さな部屋でひとり暮らしをしている。

バイトで資金を集め、このアパートに引っ越した。

決して新しいとは言えないおんぼろアパートだけど、初めてできたわたしの六畳一間のお城だ。

ここに暮らし始めてようやく、わたしは息をできるようになった。