トン…


小さく、後ろに感じた壁の存在。

逃げ場を失くした私は、ごくりと息を飲む。

彼は、変わらずまっすぐな輝いた瞳で私を見つめていた。


「…聞き間違い…、かな…?」


動揺を隠すように、震える手で髪を耳にかけながら呟く。

私の言葉を、きっと半分の聞かず、皇輝は興奮をそのままに私の肩を掴んだ。


「俺、ずっとお前を探してた。そんな気がするんだ。」

「……こ、怖い!」


思わず、思ったことがそのまま言葉に出てしまい、私は口に手を当てる。

その拍子に拾ったゴミが手から滑り落ちて、からりと乾いた音が地面に広がった。


「初めて見た時から、違和感はあったんだ。だけど今、それがほとんど確信に変わった」


相変わらず皇輝は、強い力で肩を掴み、目を輝かせる。


そんな、真っ直ぐな少年のような瞳で言われても、私にとっては正直怖くて不気味なだけだった。

さっきまでの落ち着いた感情が嘘みたいに、私の心は不穏な感情に飲み込まれていく。


「い、いやいやいや、何がきっかけでそう思ったか分からないけど、会って間もないし、そもそも意味わかんないし」

「理由なんて説明できないよ。けど分かるだろ!?この昂ぶりがさ!あるじゃん!こういう気持ち!」


ぎゅっと、両手を握られて、私は生まれて初めての経験に、猫のように全身の毛が逆立つのを感じた。

あれ、おかしいな、私が大好きな物語の世界では、手を握られるなんて凄くときめいて素敵な経験のはずなのに。


「は、離して!!!」


鳥肌でいっぱいの全身に耐えながら、私は、その手を振り払う。


「お、おい!」


背を向けた私を、まだ追いかけようとする彼に、私は一度足を止め、少しだけ振り返った。


「あ、あの!こ、今後一切、私に近寄らないで下さい!」


あまりの恐怖に、私はそんなことを口走り、逃げるようにして校舎へと駆け込んだ。