わりと足の速さには自信はあるのだが、全力で逃げる男子になかなか追いつくことは出来ない。

 悔しいっ、私を馬鹿にして!

 と思っているのに、体は付いて来ない。息が苦しくなり、足に乳酸が溜まる。元々日中に学校のプールで長時間泳ぎまくったせいで、特に今日は体力が残っていない。
ああ、それに今日はこれから帰って、残りの宿題も終わらせなければならないのだ。なんたる憂鬱。なんたる夏の終わり方だろうか。

 私が息を切らせて、膝に手を付きへばっていると、しばらくして、すぐ傍にユウキが駆け寄って来る気配を感じた。

「ごめんごめん、調子に乗りすぎた」

 絶え絶えの息がなかなかおさまらず、ユウキをなんとか見上げて、睨みつけることぐらいしか出来なかった。

「でも、おまえのことが好きなのは本当だから」
「……えっ」
「恋が始まるかは、おまえ次第だよ」

 なにそれ。そんな言葉じゃ許さないんだからっ。

「ふんっ、もう知らない!」

 私はなんとかその言葉を吐き捨てると、支えようとするユウキの手を払いのけた。

「ごめんって、本当ごめんっ、悪かったって。ずっと言い出せなかったんだよ。茶化すように言って、本当にごめん」

 私はユウキの言葉を無視し、Uターンすると、自宅への道を力強く歩いた。ユウキはオロオロと私の後を付いて来る。

「本当だって。おまえは俺のこと兄弟くらいに思ってるんだろうけど。いやオレも、ガキのころはそうだったけどさ」
「なにそれ、信じられないっ」
「気が付いたら、好きだったって言うか。これからもずっと一緒にいたいなって。それって好きってことだろ」

 そんな甘いこと言ったって、絶対、許さないんだからっ。

 かぁーっと、怒りと共に、血が頭にのぼってきた。本当に昔からユウキは人を小馬鹿にするところがある、許せない。何様だっ。生意気だ。でも、同じくらい優しくて、頼りになって、気のおけない、いいやつなのも知っている。

 私は、慌てて付いて来るユウキに振り返った。

「でも残りの宿題、手伝ってくれるなら、許してあげる」

 ユウキは目を丸くして、私の顔をマジマジと覗き込んだ後、ホッとしたようにハハッと微笑んだ。

「いくらでも、お手伝いします!」

 その後、本当に私とユウキの恋が始まって、夏が終わった後の季節も、楽しくて、ワクワクして、ドキドキしたかは、また別のお話。


おわり