アレは確か、中学三年生。



風が冷たくて、時々雪も降るような冬。



あの日は、あたしの人生上、最低で最悪な、誕生日となった。



妹の泣き叫ぶ声。



父親の激しい怒りの声。



ドアの五月蠅い開閉音。



…そして、訪れる静寂。



あたしは、それらの音を聞きながらも何一つ思ってもいなかったし、



考えてもいなかった。



言い表すのならば、『無』だったのだと思う。



感情という欠片をその時、どこかに落としたのだ。



あぁ、そうだ。



鮮明に思い出す。



あの時だ。



あたしが、世界崩壊の音を聴いた、



机の上で微妙なバランスを保っていたコショウ瓶が落ちて、カチン、と鳴った音を聴いた



ちょうど、その時。



あたしは、家族という不安定なものを失い、そして、



『感情』というものをも、



綺麗さっぱり失ったのだ。