俺は出かけた。天気はよく、晴れ渡っていた。蒸し暑い。セミが鳴いている。俺は歩いた。近所の公園についた。よく来る。公園では子供を連れた主婦がいた。公園は結構広い。俺は木陰のベンチに腰掛けた。
 「はあ」
 「しかし暑いなあ」
  俺は公園で遊ぶ子供たちを見守った。
 俺は喉がかわいたので、自販機に行った。炭酸を買った。その場で飲み干して、ゴミ箱に入れた。そうして、トイレへ行った。それからベンチにまた戻った。
 「はあ」
 そこへ明るい茶髪のショートヘア、半袖セーラー服姿の女の子が来た。よく見る()だ。女子高生だろう。JKというやつだ。
 「ん」
 と、俺。
 その()が俺の真ん前に来た。え。青春の香りがふんわりにおった。その()の肌は白く、汗をかいていて、美しく輝いていた。
 大きい茶色の目が俺をがん見している。ええええええええええええ。俺は緊張した。
 その()が、にっこり微笑んだ。え。ええええええええええ。
 「おじさん」
 と、女の子。可愛い声だ。
 「え」
 「おじさんってよくここいるよね」
 「あ、ああ。君こそよく来るよな」
 「うん」
 「高校生?」
 「そうだよ」
 やっぱり女子高生か。JKだな。
 「菜奈っていうの」
 「ああ、そうなんだ。俺は勇作っていうんだ」
 「おじさんは、仕事はしているの?」
 え、いきなり、プライベートなこと聞いてくるなあ。やっぱ女子高生だな。
 「あ、ああ。ライターをやってる」
 「え、すごおい」
 俺は片手を後頭部にやった。
 「あ、いやあ、といっても三流都市伝説雑誌のライターなんだ。仕事なんてほとんどない」
 「え、三流都市伝説!都市伝説なら私、知ってるよ」
 「あ、そうなんだ」
 「よかったらおしえてあげようか」
 「あ、ああぜひ」
 「あのね。あるところにピアスを入れた女の子がいたんだ」
 なんだ、その話か。
 「その()はピアスをはずした。すると耳に開けた穴から白い糸が出ていた。その()はその糸をひっぱたの」
 と菜奈はいった。
 「そしたらね・・・・・・・」
 いかにもおもわせぶりだな、と俺は思った。
 「女の子は目がみえなくなっちゃったんだ」
 俺は黙った。
 「あれ。面白くなかった」
 「あ、いやあ、その話なら、もう記事にしたから」
 「えええええええええええ。残念」
 俺は片手を後頭部にやって笑った。
 「あ、ああ」
 「うーん」
 と、菜奈。考え込んでいる。
 「ある女の子があ、夏場に海に行ったんだよね」
 と菜奈。
 海か。
 「そのこ、コンクリートのとこで転んじゃったんだ」
 俺は黙って聞いていた。
 「そこはね、フジツボがたくさん生えていたんだ」
 その話か。
 「そのこ、膝をきっちゃったんだよね。でね、そもままにしてその日は帰ったんだ。でもしばらくして、切った膝のとこが痛くなって、歩けなくなっちゃって、でね、病院行ったらあ・・・・・・」
 また思わせぶりな話し方だな。俺は苦笑した。
 「なんとレントゲンで膝を見たら、フジツボがびっしり」
 と菜奈はきっぱり言った。
 俺は頭をかいた。
 「あれ。これも、もう記事にしちゃった?」
 「あ、ああ。残念ながら」
 「そ、そうかあ。うーん」
 と、菜奈は考え込んだ。今度は長かった。今度こそ記事になるような話をしてやろうということか。
 「あのね、ある女性が一人で自動車を運転していたんだ」と菜奈は話し出した。
 「女性は田舎道を走っていて、ガソリンスタンドに入った。そこで、男性が来た。でね、男性は話があるから、降りろといった。女性は怖くなった。すると男性はドアを開けようとした。何するんですか、と女性は叫んだ。やばい、女性は思った。女性はエンジンをかけ、車を発進させた」
 またしても思わせぶりだ。
 「男性は叫んだんだ。車の後部座席に刃物を持った男がーって」
 菜奈は迫真の演技でいった。
 菜奈は俺をおそるおそる見つめてきた。
 菜奈はがっかりした表情をした。
 「やっぱ、これもだめかあ」
 菜奈はうなだれた。
 「ああ、別にいいよ。今仕事じゃないし」
 「そう」
 菜奈は元気がない。