俺にとっての幼なじみは、一番近くて一番遠い存在だ。





「俺と付き合おう」


「…え?」



さっきまで泣いていた実里(みのり)が、俺をぽかーんと間抜けな顔で見上げてきた。



岩崎(いわさき)実里とは幼稚園の頃からの付き合いの、いわゆる幼なじみという関係。


お互いの家を行き来しているし、休日は家族ぐるみで出かけたりもしていて俺の人生はいつだって隣に実里がいる。


実里は俺のことをなんとも思っていないけど、俺は出会った時から実里の笑顔に惚れていた。



実里に好きだと伝えなかったのは、幼なじみという関係を壊したくなかったのもそうだし、恋愛に興味がないと思っていたから。


そんな実里がいきなり好きな人ができたと言ってきたのは、高一の夏休みが明けた九月のことだった。


相手は一つ年上の爽やか王子と有名な江戸川文哉(えどがわふみや)先輩。


今まで恋愛に無頓着だった実里は、江戸川先輩に一目惚れをしたそうだ。



実里はとにかく真っ直ぐな女で、好きだと自覚してから先輩にひたすらアタックをしていた。


だけど今日、先輩は幼なじみの女と付き合ってしまったと泣きながら実里が俺の部屋に来てそう言った。



だから俺はチャンスだと思った。


長年の想いを伝えるなら今しかないと。