「同期入社のその子とは、俺は研究室務めだから、普段はあんまり接触もなかったけど、でも同期の呑み会とかで顔を合わすと、ちょっと浮き気味の俺にも、話し掛けてくれたりして、気遣いの出来る素敵な女性だった。その子の明るさと笑顔に、俺は徐々に惹かれて行ったんだ。」
(裕・・・。)
「でも、その思いを彼女に告げるつもりは全然なかった。告げたところで、婚約者もいて、いずれ大塚を去らなければならない俺には、どうしようもないし、それ以前に、御曹司であることを隠した、ただの地味な研究員に過ぎない俺に、その子が振り向いてくれるとはとても思えなかったから。その気持ちは、心の中に仕舞ったままにしておこう。そう思っていた。」
「・・・。」
「そうこうしている内に、2年半の月日が流れた。そろそろ、退職に備えて、研究の引継ぎの準備を始めなきゃならない、そんなことを思いながら、その日俺は、会社を出て、夕飯を食べようと、近くの居酒屋へ寄った。俺は自炊が好きだから、当時は仕事帰りでも大抵自分で作ってたんだけど、あの日はなんか疲れてて、その気にならなかったんだ。だからそこで、彼女と居合わせることになったのは、本当にただの偶然に過ぎなかったんだが、少しすると、彼女が同僚たちに嘆いているのが耳に入って来たんだ。なんでも彼女は、意に沿わないお見合いを親から強制されており、困っていると言う。偽彼氏を連れて、実家に乗り込んで、なんとかその見合いを中止にしたいけど、協力してくれそうな男子がいないと言う彼女の言葉に、俺は思わず怒りを覚えたんだ。」
「怒り?」
「そうだ。意に沿わない見合い、そして結婚を強いられる。それがどんなに理不尽で、納得できないことか、自分にはよくわかる。自分はそれを結局、唯々諾々と受け入れてしまったが、好きな人に同じ思いを味わって欲しくない、いや絶対に味合わせたくない、そう思ったんだ。だから、その夜、一晩考え抜いて、俺は彼女の偽彼氏に立候補することにした。彼女の力になりたいって決心したんだ。」
(あの時、裕は友だちが私と同じ目に合っていると言ってたけど、本当は自分のことだったんだ・・・。)
そんなことを思いながら、自分の顔を見つめて来る凪咲に
「偽彼氏を買って出た時は、正直言って、結構安易に考えてたんだ。1度、お前の実家に挨拶に行って、見合いの話が無くなれば、それで俺の役目は終わり。好きな子の役に立てれば、それでいい。俺は満足だ、そう思ってた。」
裕は話を続ける。
(裕・・・。)
「でも、その思いを彼女に告げるつもりは全然なかった。告げたところで、婚約者もいて、いずれ大塚を去らなければならない俺には、どうしようもないし、それ以前に、御曹司であることを隠した、ただの地味な研究員に過ぎない俺に、その子が振り向いてくれるとはとても思えなかったから。その気持ちは、心の中に仕舞ったままにしておこう。そう思っていた。」
「・・・。」
「そうこうしている内に、2年半の月日が流れた。そろそろ、退職に備えて、研究の引継ぎの準備を始めなきゃならない、そんなことを思いながら、その日俺は、会社を出て、夕飯を食べようと、近くの居酒屋へ寄った。俺は自炊が好きだから、当時は仕事帰りでも大抵自分で作ってたんだけど、あの日はなんか疲れてて、その気にならなかったんだ。だからそこで、彼女と居合わせることになったのは、本当にただの偶然に過ぎなかったんだが、少しすると、彼女が同僚たちに嘆いているのが耳に入って来たんだ。なんでも彼女は、意に沿わないお見合いを親から強制されており、困っていると言う。偽彼氏を連れて、実家に乗り込んで、なんとかその見合いを中止にしたいけど、協力してくれそうな男子がいないと言う彼女の言葉に、俺は思わず怒りを覚えたんだ。」
「怒り?」
「そうだ。意に沿わない見合い、そして結婚を強いられる。それがどんなに理不尽で、納得できないことか、自分にはよくわかる。自分はそれを結局、唯々諾々と受け入れてしまったが、好きな人に同じ思いを味わって欲しくない、いや絶対に味合わせたくない、そう思ったんだ。だから、その夜、一晩考え抜いて、俺は彼女の偽彼氏に立候補することにした。彼女の力になりたいって決心したんだ。」
(あの時、裕は友だちが私と同じ目に合っていると言ってたけど、本当は自分のことだったんだ・・・。)
そんなことを思いながら、自分の顔を見つめて来る凪咲に
「偽彼氏を買って出た時は、正直言って、結構安易に考えてたんだ。1度、お前の実家に挨拶に行って、見合いの話が無くなれば、それで俺の役目は終わり。好きな子の役に立てれば、それでいい。俺は満足だ、そう思ってた。」
裕は話を続ける。


