ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~

廣田と会った翌週の週末、凪咲は帰郷した。連絡もない突然の帰郷に両親は驚いていたが


「お父さんが心配だがら、様子を見に来ただけ。」


凪咲は澄ました顔で言った。直也は少し前に店を再開させていて


「お前なんかに心配されんでも、もう全然平気だ。」


意気軒高の父親が、凪咲は嬉しかったが


「そうやって、齢も考えずに無茶するから、心配なんじゃない。」


と釘を刺すと


「何を!」


怒ったような表情を浮かべる直也は、その実、娘とこうやって会話を交わしていることが嬉しそうだった。夕方を迎え、夕飯の買い物客で、賑わっている店を、父と共に切り盛りしているのは、母だけではなかった。


「親父が、ウチの店に誇りと強い愛着を持っているのは間違いない。だから当然、俺に跡を継げと言って来るものだとばかり、思っていたら、『お前が継ぎたいというなら大歓迎だ。だが、これからの時代、ましてウチのような地方では、個人商店が生き残っていくのは正直難しいと思う。』って言われて、拍子抜けしたもんだよ。結局、自分でもよく考えて、信金に勤めることにして、そのことに親父が全く反対することはなかったから、これでいいんだと思っていたんだが、今回親父が倒れて、ひょっとしたら、店を畳まなきゃならなくなるかもしれないとなった時に、それが嫌だなと思っている自分がいたんだ。」


「おにい・・・。」


「まぁ、まだ完全に決めたわけじゃないが、充希には『お前、ひょっとしたら肉屋の嫁になるかもしれないぞ』とは言っといた。」


休日返上で、実家の手伝いをしていた兄は、そう言って笑っていた。


翌日は、朝早く、旅館鳳凰に廣田を訪ねた。大勢の宿泊客のチェックアウトでごった返しているフロントで、廣田はテキパキ動いていたかと思うと、玄関で笑顔で母である女将と共に、出発客を見送っていた。


やがてチェックアウト時間が過ぎ、廣田は従業員に後を任せると、凪咲を助手席に乗せ、旅館を出発した。


「お疲れ様でした、大変だったね。」


凪咲が改めて笑顔でねぎらうと


「『終わりよければ、全てよし』って言うからね。施設や食事、それに温泉にどんなに満足していただいたとしても、最後の最後にお客様に不快な思いをさせてしまったら、全部台無しだからね。お見送りは絶対に蔑ろには出来ないよ。」


そう答えた廣田の笑顔は輝いていた。