梨花は未だに朔斗に好きと言えていない。
言ってもはぐらかされるって分かっている。
返事は絶対言ってくれないって知っている。

そういう人なんだと思うことにした。

学校の中庭がやわらかな風で草木が揺れていた。

今日は高校になってから朔斗と初めてのお昼ご飯。

お互いに向き合って、お弁当を食べて
たくさん話すのは初めてだった。

ふと朔斗の顔を見る。
どこかいつもより綺麗な髪型。
ワックスでもつけたのだろうか。
梨花は、前髪が気になって指で朔斗の髪に触れる。

「やめろって。」

「ごめん、気になって。」

伸ばしたい手を引っ込めた。
ガシッと朔斗の腕をつかむ。

ぼんやりしていると、近くの廊下を
人気アイドルみたいな可愛い3年先輩が
通り過ぎる。校内では噂の人だった。

朔斗はハートマークの目をして、
ボンキュンボンの体の先輩を眺めていた。

「なぁに、見てるの?」

「ーん?別にぃ何も。」

「ふーん。」

 頬を膨らませて、ヤキモチ妬いているなと感じた。
 朔斗はテーブルの上にどんと体を
 半分のせて梨花の前に顔を近づけた。

「あのさ、分かるよね?」

「え?」

「何のためにそれあげたと思ってるの?」

 ずいぶん前に一緒に出かけた駅前の路上販売で
 売っていた。シルバーリング。
 付き合った記念日におねだりして買ってもらった。

「…だったら、分かるでしょう。」

「……そんなのはっきり言ってくれなくちゃ
 形が見えないものだから
 分からない!」

「…ったく、仕方ないなぁ。」

 朔斗は、スマホ片手にポチッとラインメッセージを
 梨花に送った。顎でくいっと示した。

 梨花は朔斗から可愛いハートマークを持つ
 イラストを送った。

「むーーー?」
 
 怒っていると見せかけて、ご機嫌の梨花。
 顔をあげると朔斗の顔が近づいていた。

 爽やかな風が梨花のセミロングの頭を靡かせた。

 ものすごくそばに朔斗がいる。
 ここは学校の中庭。

 嬉しすぎて、笑みがこぼれる。
 心がホクホクになってあたたかくなる。


 もう朔斗に対する心配事がなくなった。
 言葉にしなくても朔斗の気持ちが伝わった。
 

 空には飛行機が飛んでいて、
 大きく虹がかかっていた。


【 完 】