食材が入ったビニール袋を両手に
朔斗の母が,玄関に荷物を置いた。

「ただいまー。
 ごめん、朔斗ー、いるんでしょう。
 荷物運んでもらって良い?
 って、あら、お隣の梨花ちゃん?
 見ない間に凄い美人さんになったわね。
 今日の浴衣,大人っぽいわぁ。
 モデルになれそうね。」

 朔斗の母は、梨花の白とすみれ色の
 浴衣姿にうっとりしていた。

「あ、あのさ。
 俺、梨花とさ…。」

「もう!!朔斗も隅に置けないわね!」

 朔斗の母は、左肘でくいっと朔斗をつついた。

「え、だから、あのさ。」

「梨花ちゃん、本当、ダサい朔斗でごめんね。 
 寝癖のそのままで,服装もそんなに
 気にしないからさ。
 彼女の言うことなら聞くだろうから
 本当によろしく頼むわね!!」

 朔斗の母は、しっかりと梨花の手を握って
 懇願した。言わなくても、すでに彼女であるの 
 だと解釈された。

 本当はしっかりと挨拶をしたかった朔斗だったが、
 ボリボリと後頭部をかいて諦めた。
 朔斗は黙って二つの買い物袋を台所に運んだ。

「あれ、お祭り見に行ったんじゃ無いの?」

「行かない行かない!
 行こうとしたけど、すごい渋滞しててさ。
 花火大会で混んでたから諦めたの。
 お父さんが今おばあちゃんがお友達と
 駅から歩いてお祭り行ってるから
 迎えに行ってるの。
 多分,時間かかると思うわ。
 仕方ないわね。」

「あ、そーなんだ。
 んじゃ、梨花送ってくるから。」

「ちょっと待って。
 このぬか漬けお土産にやって。」
 
 朔斗の母は、タッパにつめた
 ぬか漬けを朔斗に手渡した。

「梨花ちゃん、いつでも来てね。
 朔斗、寂しがり屋だから
 喜ぶから。」

「おい!余計なこと言うな!!」

「こわいこわい。
 こわい息子やわ〜。」

朔斗の母は台所に戻って行った。
朔斗は玄関を開けて、梨花を隣の家まで
送ろうとした。 

「ごめん、梨花。
 あっち行かない?」

「え?」

「公園。」

「あ、うん。別に良いけど。」

 夜空に満天の星が輝いている。
 お祭りの花火とは違う楽しみがあった。

 カランコロンと下駄の音を響かせながら
 近所の公園まで手を繋いで歩いた。

 朔斗はもっと一緒にいたくて
 梨花を帰らせたくなった。

 握った手がキツくなるのを感じた。

 後ろからヘッドライトが光る。
 恥ずかしくなって、繋いでいた手を
 後ろに隠した。

 今更遅いのにと笑みをこぼした。