ざわざわと賑わう神社のお祭りで朔斗と
梨花は浴衣と甚平で隣同士に
露店の通りを手を繋いで歩いていた。

梨花は、かんざしをつけたうなじの部分が
かゆくなって、和柄パッチワークの袋を左手に
持ちながらポリポリとかいた。

横にいた朔斗は滅多に見られない
梨花のうなじに頬を赤くしていた。

朔斗がコホンと咳払いとすると、
目の前にはりんご飴のお店があった。

そこにはりんご飴だけじゃなく、
いちご飴とべっこう飴も売っていた。

梨花は他のものには目もくれず、
透明な袋がりんご包んでいたが、
下にはカラフルなモールがついていた。

「なに、ジロジロ見てんだよ。
 どれも同じりんご飴だろ。」

「え、でも、下についてるモールの色は
 いろんなのあるでしょう。
 その色を決めていたの。
 朔斗は食べないの?」

「俺は、いちご飴にしてみようかな。」

「へぇ、可愛いのもの好きなんだね。」

「そうそう、俺はねこういうの好きなの。」
(梨花みたいに可愛いのなんて
 口が裂けても言えないな。)

お店の若い女性店員さんは、
ニコニコとこちらを
見ていた。カップルかなと想像している。

「いらっしゃいませ。
 どちらになさいますか。」

「あ、すいません、このいちご飴と…。」

「あ、んじゃぁ、このピンクのモールの
 りんご飴で。」

「ありがとうございます。
 いちご飴が400円で
 りんご飴が500円です。
 全部で900円になります。
 もしよければあと100円で
 小さなべっこう飴ありますよ。」

 商売上手のおねえさんは、隣に並べていた
 ちいさな丸いべっこう飴を100円で
 売ろうとしている。
 お会計が合計1000円になって、
 おつりがない。 
 買い手も売り手も便利なシステムだ。

「え、どうする?」

「うーん、まぁ、買っておくか。」

 朔斗は、財布から1000円札を取り出して
 べっこう飴を店員に渡した。
 売り上げに貢献したと笑顔で会計をしていた。

「「ありがとうございました!!」」

 奥にいた店員も一緒に挨拶していた。

 朔斗は、買った飴をビニール袋に入れて
 もらい手に持った。

「梨花、あっちの方行こうぜ。」

 朔斗は離していた手をまた繋いで、
 神社の奥の方の静かな石垣の上に座った。
 少し薄暗かった。和太鼓の音が遠くに
 聞こえる。

「ここで食べよう。」

「う、うん。」

 朔斗は袋から飴を取り出して、梨花に渡した。
 いちご飴を透明な袋をめくって、あむっと
 食べ始めた。
 りんご飴を見た瞬間、梨花の顔がほころんだ。
 パリッと赤い飴を割ってなめた後、
 シャリとするりんごに到達した。

 朔斗は一口でいちごを食べてしまっていた。

「えー、朔斗、もっと味わいなよ。」

 口をもごもごしながら、不思議そうな顔をする。

「なに?うまかったよ。
 いちごは小さいからな。一口だよ。」

「私のはりんごだから時間かかるし、
 もっとゆっくり食べて欲しかった。」

「そうか?
 ほら、もうひとつのべっこう飴あるだろ。
 それでいいじゃん。」

「あ、まぁ、いいけど。」

 梨花は不満そうにしながらも、
 頬をおさえながら、美味しそうに
 りんご飴を食べていた。
 
 すっかりいちご飴を食べ終わった朔斗は
 袋から六角形に作られたべっこう飴を頬張った。
 梨花の肩に触れて、有無も言わずに
 顔を近づけて、梨花の口の中にうつしで
 べっこう飴を入れた。

「ひやぁ!」

 小さな悲鳴をあげて、驚いた。
 突然のことで、体が倒れそうになり、
 朔斗は左腕で梨花の背中を支えた。

「危ないなぁ。驚きすぎだろ。」

「だ、だってぇ…。あ。」

 さっきまで食べかけのりんご飴が串に
 ささったまま地面に落ちていた。

「ああ、もう。朔斗が変なことするから!!
 りんご飴落ちたじゃん。」

 そう言いながらもバリボリと口うつしで
 もらったべっこう飴を噛んでいた。

 シンプルな甘さではちみつの味が
 広がった。地面に落ちた砂だらけの
 りんご飴を拾って、持っていた
 ポケットティッシュに包んで
 ビニール袋に入れた。

「べ、別にいいだろ。
 キスできたんだから。」

「むぅ…私のりんご飴…。」
 頬をふくらませて怒っていた。

「ああ、わかったよ。」

「へ?」

 よくわからない朔斗の発言に驚いた。
 何がわかったのか。

「りんご飴のことを忘れられるように 
 してやるよ!!」

 隣に座る梨花の両肩をおさえて、
 少しずつ顔を近づけたお互いの
 鼻が触るか触らないかという距離で
 やわらかい唇が梨花の
 上唇に触れた。
 頬を赤くして、何も言えなくなる。

 朔斗は、息つく間もなく
 何度も唇を重ねた。
 心臓の音が激しくなる。

 もう、触れる手、触れる唇に 
 集中して、落ちたりんご飴なんて
 考えもしなかった。

 今はただ、一緒にいるその時間が
 ものすごく愛しかった。


 丸く輝く満月の横で色鮮やかな花火が
 どんどんと打ち上がっていた。


 2人は打上花火よりも愛の炎が燃えがっていた。