夕食を食べ終わったまったりとした夜の時間。
夏が近づいてきてる。空には雲がない。
キラキラと星が輝いている。

朔斗の部屋に風鈴が窓際で揺れていた。
窓を開けると風が入ってきた。
風鈴と共にカーテンも揺れている。

朔斗の膝に乗ったミャーゴの尻尾が
パタンパタンと動く。
机に向かっていた朔斗は英語の宿題をこなしていた。

隣を見ると横をチラチラと見る梨花がいた。

「朔斗ー、宿題終わった?」

「……。」

家だというのに話しかけらても気にしていない。
ミャーゴが代わりに反応して、梨花の顔を覗きに
ベランダに行く。そっちに行くなと止めようとしたが、手遅れだった。ミャーゴはベランダを飛び越えて、梨花の家の方にジャンプした。

「あ、ミャーゴ。
 まったく、逃げ足のはやいやつだ。」


「ミャーゴ、来てくれたのね。
 可愛い可愛い。素直でよろしい。」

 梨花はミャーゴを抱っこして、頭を何度も撫でた。

「わ、悪かったな、素直じゃなくて…。」


「え、聞こえてた?
 素直じゃないって認めるんだね、朔斗。」

「……ふん。」

腕組みして、そっぽを向く。

「ミャーゴはお利口だなぁ。」

ゴロゴロと喉を鳴らす。
ご機嫌のようだ。
お腹を見せて、撫でてと要求する。

「構ってほしいの?
 仕方ないなぁ。」

梨花は、ミャーゴに猫じゃらしを垂らして、
遊んであげた。ハンターのようにあっちに行ったり、こっちに行ったりと楽しそうにじゃれていた。
それを見た朔斗は、ご不満そうにミャーゴが羨ましくなり、ベランダを飛び越えて、梨花に気づかれないように部屋に侵入した。
忍者のように抜き足差し足忍び足で、そっと、梨花の後ろに近寄った。

「ミャーゴは本当に猫じゃらしが好きななのね。
 …きゃぁ!!」

ミャーゴに夢中になってる間に座っている梨花の後ろにまわりこむ朔斗はギュとハグをした。

「あったけぇ。」

「ちょっと急にびっくりするよ。ちょっと待って、今夏に近づいてますけど??どういうこと?」

「俺だけ異空間。」

「どういうこと?急にファンタジー?」

「そういうことじゃなくて、
 夏も夏じゃなくなるんだわ。
 もっと熱くなりたい…なんつって。」

 さらにぎゅーとハグするとミャーゴが
 ヤキモチを妬いて2人の間に入ってくる。
 
「もう、ベタベタするから
 ミャーゴが朔斗に威嚇してるよ。」

 朔斗は、ミャーゴに猫のような姿でシャーと威嚇した。

「どっちが猫よ!?」

 朔斗はなぜか梨花の部屋の廊下にミャーゴを抱っこして連れて行き、ドアを閉めた。カリカリとドアを爪でかく音が響いたが、朔斗はしてやったりした顔をして、改めて、梨花の背後に座った。もう動けないくらいガチっとロックがかかった。梨花は何をされるのかと硬直した。

「何、固まってるのさ?」

「え、だって、近くにいるから。
 ミャーゴを外に出すし…。」

「何もしないよ。」

そう言いながら、首筋に唇を当てる朔斗に鳥肌が立つ梨花はささっとゴキブリのような動きをして、後退した。部屋の端の方に移動している。

「え、待って。
 梨花、まさかとは思うけど?」

梨花は、忍者のような格好で
本棚に後ろ向きにしがみついて、
ドキドキする。

「な、何?」

「は、初めて?」

「え?何が。」

「いや、だから。男と付き合うとか」

「そ、そうだけど!?」

「あ、そうなんだ。そっかぁ、そっか。」

後頭部をボリボリとかいて、ニコニコと嬉しそうにする朔斗は照れている。

「え、朔斗はどうなのよ。」

「ん?内緒……」
 口に指をあてていう。

「うわ、ずるいなぁ。」

「マイペースに行きましょ、ね。
 梨花ちゃん。」

 朔斗はそっと梨花の頬にキスをして、
 ベランダを飛び越えた。

「あ、ちょっと、ミャーゴ忘れているよ!」

 慌てて、ドアをカリカリしていた
 ミャーゴを抱っこして、朔斗に手渡した。
 ベランダの上、渡した瞬間に隙を見て、
 朔斗は口づけた。

 梨花は、頬から口に移動して、
 驚きを隠せずにいた。手で口をおさえた。

「おやすみー。」

 引き戸の窓を閉めて、朔斗は早々に戻っていく。

 今起こっていたことは何だったのかと疑うくらいに
 呆然と立ち尽くした。

 夜空には満月と星たちがこれでもかと輝いていた。