翌日
いつもと変わらない教室
いつもと変わらないお昼休みに
なると思われた。

恵麻と美貴が、大きな声で叫ぶ。
クラスメイト達も驚くくらいだ。
ざわつき始めている。

「えーーーー?!」

「ちょ、ちょっと声が大きい!!」

 目をおもいっきりつぶって、
 口元でしーのポーズを取る梨花は
 2人を静まらせるのに必死だった。
 ものすごく恥ずかしい。
 言わなければ良かったと後悔する。

「だってさ、急展開じゃない?!」

「そうだよ、YouTubeのタロットカード占いの
 タイトルかってくらいに急展開。
 なんでそうなる?!」

「え、恵麻、タロットカード占い見てるの?
 私も見てるよ。」

 梨花は掘り下げる話を間違えている。

「いやいや、梨花、そういうことじゃなくてね。」

「そうだよ、
 なんで、付き合ってもないのに
 チューしちゃうのさ。
 もう差し出すなんてぇ。」

「う、うん。
 それは私もそう思う。
 あ、それは事故だから。
 たぶん。」

「事故あったからって
 嫌なら防ぎようなかったの?」

 恵麻がずいずい聞く。
 梨花が横に目をずらして、ニヤニヤと
 頬を赤くする。
 食べていたお弁当のご飯粒が
 ランチョンマットに落ちた。
 
「……。」

「これは、嫌じゃないってことかな。」

 美貴は言う。

「え、だってさぁ……。
 でもにんにくのは
 迂闊だったなあって思ったよ。
 レモンティーとかにしておけば
 良かったわ。」

「初恋の味はレモンの味ってこと?」

 恵麻は頬杖をついて梨花を見る。

「そうそう、それ。
 今も言わない?」

「さぁてね?」

「私はいちご味がいいなぁ。
 いちごミルクとか。」

 美貴がニコニコと言う。
 すでに彼氏が中学の時からいて、
 それなりに経験している。
 初めてはいつのことだろうかと
 思いながら懐かしんで、話に乗っかっていた。

「私はタバコの味も悪くないと思うよ?」

「えー、うわぁ、大人な感じぃ。」

「え、待って。恵麻って年上の彼氏いるの?」

「……それは内緒。」

「でも、私はタバコは無理かも。」

 梨花は煙という煙に反応して、
 咳き込むタイプだった。
 年上の彼氏は難しいねと恵麻は言った。

 教室の前方入り口から
 教壇を通り抜けようとする朔斗がいた。
 広大とともに、購買部でお昼ご飯を買いに
 行っていたようだ。今までの話はもちろん
 聞かれていない。

 梨花はほっと安心した。
 すると、朔斗とともにいた広大がこちらに
 近づいていきた。

「栗原、
 午後の授業で国語が自習になる
 らしいんだけど…。」

 梨花と広大はクラス委員を務めていた。
 担任の先生から連絡があったようで
 話しかけてきた。

「あ、うん。そうなんだ。」

「何か、図書室から自習用の本を
 取りに行ってくれって五十嵐先生が
 言ってたからさ。5時間目の後の
 休み時間にいい?」

「うん。わかった。ありがとう。」

「おう、んじゃ、その時に声かけるわ。」

 広大はそう言って、朔斗がいる席に戻っていた。
 むすっとした態度をした朔斗を見た広大が
 グーパンチで軽く肩にふれた。

「やきもち妬くなよ。」

「妬いてねぇって。」

「マジか。すっげー顔が怖い顔してっけど?」

「元々、こういう顔だっつーの。」

 朔斗は広大にかなり嫉妬した。
 教室でまともに梨花と話したことのない朔斗は
 ものすごく羨ましく感じたのだ。
 強がって見せた。

「午後、国語、自習になるのか?」

「ああ、五十嵐にさ。
 さっき廊下で声をかけられて、言われたんだわ。
 国語の佐藤先生休みなんだってさ。」

「へー、そうなんだ。
 また本読みかあ。
 俺、活字苦手なんだよなあ。」

 スマホを開いて、電子漫画を見始める朔斗は、
 広大にじーっと画面をのぞかれた。
 ぐいーと左によけようとする。

「もしかして、R指定?」

「……。」

「お前も悪よのう。
 ダメだろ、健全な高校生が。」

「お前だって、見るだろ。」

「俺、健全だから。」

「どこがだよ。
 この間、遊びに行った時成人向け雑誌
 ベッドの下に置いてただろうが。」

「いや、いいや。違うよ。
 健全な男子たるもの
 俺は堂々と勉強机の上だ。」

「認めるんだな。 
 そういうことだな!!」

「袋とじがたまらんよな。」

「おっさんかよ。」

「……うん。マダム好きだから
 そうかもしんねぇな。」

「年上好き?」

「今度、従兄にもらったDVD見せてやるから。」

「おっさんの話はスルーか。」

「まぁまぁまぁ。」


 教室の窓から見える空は青く透き通っていた。
 雲がふわふわと浮かんでいる。

 梨花は遠くから朔斗と広大のじゃれ合う姿を見て、
 微笑ましく思えた。