昇降口の靴箱の前で履き替えたばかりの梨花は
靴紐が取れていることに気づいた。

少し外側に出て、靴紐を結び直す。

そこへ、頭上に手があることが気づかずに
見事にぶつかった。

朔斗の手だった。


「え?なに、なに。今、何してた?」

「気づくの遅い。」

「てか、なんで、私の頭の上に手を置いてるんのよ。
 絶対ぶつかるじゃない。」

「知っててやった。」

「は?」

 イライラがおさまらない。
 そこへ美貴と恵麻が声をかける。

「ほら、梨花〜、行くよ?」

「あ、うん。今行く。
 本当に朔斗のバカ!!」

 朔斗に吐き捨てて、2人のいるところへ
 駆け出した。
 今日はテスト期間前ということで部活動が
 休みだった。珍しく3人で帰れると楽しみに
 していた。
 そこに朔斗のいたずらが入り、イライラする。
 
 朔斗は梨花の後ろ姿を立ち去っても眺めていた。

「朔斗ぉ、いい加減、お前ら付き合えば?」

「はぁ?」

 クラスメイトの広大が話す。

「さっきのやりとりさぁ、
 好きな子をいじめるやつだろ。
 もろ、バレてるって、それ。」

「違うっつーの。
 勝手に決めるんな。」

「はいはい。
 ずっと沈黙貫いてきた癖にボロ出まくってるぞ。」

「……広大は彼女作れ。」

「お前に言われたくないわ。
 俺は彼女は今いらないの。」

「よ、強がりぃ〜。」

「何,その掛け声。
 意味わかんねぇ。」

「んじゃ、今日のおごりなしね。」

「なぬ!?
 それはないっしょ。
 頼むよぉ、朔斗くん。
 楽しみにしてたんだから。」

「そうならいいけどぉ?」


 朔斗と広大は学校から近いコンビニに
 寄り道して、今日が発売とされる期間限定の
 ゲームキャラクターの一番くじを買おうと
 していた。
 財布を忘れた広大のために
 朔斗はおごると話をしていた。
 誕生日も近いこともあってそれを兼ねていた。

 コンビニに行くとさっきの女子3人組に 
 鉢合わせする。

「あ、朔斗。」

「うわ見たくないやついたわ。」

「うっさいわ。」

 そんなやりとりを見ると
 夫婦漫才見てるみたいだった。
 2人の微笑ましい様子を他のメンバーは
 眺めている。

「やっぱさ、もう付き合ってるんでしょ?」
 恵麻が言う。

「「つきあってない!!」」

 同時に話す2人にみな笑いが起こる。
 言い逃れできない事実。
 相性がいいということだろうか。

 複雑な気持ちのまま、
 梨花はホットスナックのあつあつの
 肉まんを握りしめていた。