学校の授業中の時間。
朔斗と梨花は、人が少ない
電車の車両に乗っていた。

タタタンタタタンと走る音が響く。
外の景色を見ると田畑が広がっている。

不思議な感じだ。

学校に行ってる時間なのに
また電車に乗っている。

誰かに声をかけられたら、
なんと話そうか。

制服の上はジャケットを羽織っているため、
どこの高校かはわからない。

高校生だとはすぐわかるだろう。

ふと、隣に座る朔斗を見る。

「何してるんだよ
 さっきからあっちこっち見て。
 初めて電車に乗る子どもか。」

「え?」

 朔斗はスマホのゲームをしながら、
 横目でチラと見ながら話す。

「見えてるつーの。」

「ゲームしてるから気づかないと思った。」

「俺の馬並みの視野を梨花は知らないのか。」

「う?馬並み?」

 まだゲームをしている。
 馬をモチーフにしたゲームをしているようだ。


「ち、ちくしょ。
 次のレースは絶対勝つぞ。」

「朔斗、競馬にのめり込むサラリーマン
 じゃないんだから。」

「俺はおっさんじゃない。」

「……朔斗、学校でなんで話さないの?」

「………。」

 その一言で朔斗は何も言わなくなった。
 ものすごくペラペラと話していたのに
 梨花の一言で何も言わなくなった。
 何かに敏感なのだろうか。

(なんで、何も言わなくなるのよ。
 まったく、さっきまでベラベラと話してたのに。)

 ご不満な梨花は、外の景色を眺めた。
 学校近くの駅から、
 行こうとしているお店がたくさんある駅には
 約50分くらいかかる。

 長い時間を要する。
 会話で繋ごうと思っていた梨花だったが、
 突然黙ってしまった朔斗に
 不機嫌になって、スマホをぽちぽちと
 いじり始めた。

 朔斗も続けて、ゲームをやっている。

 時々、前髪を気にして、
 指先で整えていた。


 ぼーと過ごす瞬間も今は貴重に思えてきた。

「なに?」


「なんでもない。」


電車はタタタンタタタンと静かな音を出していた。




◻︎◻︎◻︎


「朔斗、一体どこ行くの?」

終点の駅に着いて、改札を出ると朔斗は梨花のことを
気にもせず、ささっと歩いていく。

「ちょ、置いてかないでよぉ。」

 梨花は急ぎ足でいく朔斗に着いて行った。

 駅の中は人が行き交っていて、
 ぶつかりそうになる。

 平日の朝は、出勤途中のサラリーマンや、
 お土産売り場にたまるツアー客で
 ごった返していた。

 高校になって、朔斗とデートみたいな外出だ。

 心臓の高鳴りが早まった。


 ◻︎◻︎◻︎


「何、これぇ。
 超、可愛いんですけど!」

 梨花はペットショップの犬猫売り場に
 夢中になっていた。

 駅から約20分歩いたところにあった。

 周りでは猫の鳴き声や、犬の吠える声が
 響いている。
 
 見ていたのは
 スコフィッシュフォールドの毛色が
 ブルー系の男の子。
 出身地は福岡県とプロフィールが書かれていた。
 

「金額は…えっと142000円?
 高いわ。」

「当たり前だろ。
 買うってなったら、それくらいするんだから。
 雑種と一緒にするなよ。」

 猫の遊びグッズをカゴに入れて、
 気持ちがホクホクしている朔斗が梨花に言う。
 黙っていたのが喋り出す。

「え、ミャーゴってなんの種類なんだろ?
 雑種なの?あれ。」

「同じじゃね?
 これと。」

「え?ミャーゴって買うってなったら
 めちゃ高いじゃん。
 ラッキーだね朔斗。」

「まぁ、お金の問題じゃないだろうけどな。
 かわいそうだよ、捨て猫っていうのは。」

「…うん。確かにね。
 理不尽に捨てちゃうんだ、ひどいよね。」

「捨てられていなかったら猫飼うって気持ちも
 ならなかったけどな。
 これ、買ってくるわ。」

「え、朔斗、ここのペットショップ来た理由って
 まさか、そのお遊びグッズのため?」

 質問をしたのに、すっかりいなくなっていた。
 レジにカゴを持っていく姿が
 とてもウキウキしていた。
 朔斗のご機嫌な姿を見るのはいつ振りだろう。

 買い物を終えて、袋の中のみつめながら
 ニヤニヤと笑う朔斗を横から覗く。

「ミャーゴに溺愛だね。」

「悪いかよ。」

「ううん。良いと思うよ。 
 大事にしてて。
 …まぁ、もう少し人間も
 優しくして欲しいけど。」

「は?誰のことだよ。」

「さて、誰のことでしょうか。」

 梨花は、朔斗を追い抜いて、
 ペットショップのお店を出た。
 出口付近で、熱帯魚が展示されていた。
 青く透き通った水槽の中には、
 キラキラと光が反射したグッピーが泳いでいた。

「まぁ、こういうのもペットだもんね。」

「魚系が磯臭いから、俺は無理かな。」

「猫は獣臭いじゃん。」

「梨花よりはマシだよ。」

「どう言う意味よ。」

「そのままだよ。」


 梨花は、朔斗を拳をあげて、追いかけた。 
 朔斗は頭を隠して、逃げ回った。

 学校をサボってきてることさえも忘れていた。

 楽しいひと時だった。