ホームの待合室から外を覗くと
乗ろうとしていた車両が到着した。

朔斗が先に待合室の引き戸を開けて、
梨花を通した。

レディーファーストをアピールかと思ったが、
あえてのスルーをした。

この時間の車両は高校生は誰も乗っていない。
完全なる遅刻なのだから乗る者はいないだろう。

買い物に行くかと思われる主婦や、
どこへ行くのかわからないおじいさん、
抱っこ紐をつけた親子連れくらいだった。

そもそも田舎の駅に用途はあるのだろうかと
考えてしまう。

梨花と朔斗は、端っこの方に隣同士
自然に座った。

梨花は、ガラガラと空いているのに
こんなに密着していいのだろうかと
内心ドキドキした。
先に座ったのは自分だ。
近寄ってきたのは朔斗なんだ。


「この電車で行って、教室行ったら
 なんで2人同時なのって疑われるな。」

「……確かに。
 いや、ものすごく目立つじゃん。
 どうすんのさ。」

「どうするも何も。」

「時間差で行こう。
 いやだ。
 本当、クラス全員に見られるのは
 ちょっと、恥ずかしすぎるよ!!」

「素知らぬ顔してればいいじゃね?」

「だって、今まで一度も遅刻したことないんだよ?
 この電車だって初めて乗るし!!
 おかしすぎるじゃん。この2人でいるって。」

「……サボるか。」

「サボる?ここまで来て?」

「よし着いたぞ。」

 なんだかんだ話をしている間に
 学校の最寄り駅に到着する。
 朔斗は何か作戦があるようで、
 梨花の腕を引っ張った。

「え、ちょ、ちょっと…。」

 ドアが開いて、ズイズイと引っ張られる。
 改札口を出て、自動券売機の方へ誘導された。

「よし、この際だ。
 今日くらい、気分転換しようぜ。」

「え?」

「えっと、あそこに行くには
 片道1000円か…てことは
 梨花の分も合わせて2000円だな。」

 財布の中からお金を出して、 
 切符を買おうとする。
 その行動に梨花は、疑問符を浮かべる。

「はい。俺のおごりでいいから。」

「は?」

切符を手渡された。

「学校に行くストレス感じるなら
 今日だけ休んで発散するぞ。
 あ、でも、学校に連絡しておかないとな。」

朔斗は、スマホを取り出して、
学校専用アプリを起動した。

遅刻、欠席などの連絡は
今は、スマホのアプリから
できるようになっていて便利だった。
アナログに疎い母の代わりに自分のスマホに
登録していた。

「え、私は、そのアプリ入れているの
 お母さんなんだけど。どうすればいいの? 
 電話しないといけないよね。」

「俺が、お父さんの代わりする?」

「そ、それは無理あるんじゃない?」

「んじゃ、母親役するわ。
 まかせろ。」

 朔斗は、学校に電話をかけ始めた。
 甲高い声で、梨花の母のモノマネしながら
 電話をかけた。

「1年2組の栗原梨花ですが、
 本日具合悪いということで休ませます。
 よろしくお願いします。」

『はい。わかりました。
 担任の先生に伝えておきますね。
 お大事になさってください。』

朔斗はグーの指を示した。

電話を終えると、朔斗はガッツポーズする。
まさか、そんなことできるのかと
驚きを隠せなかった。

梨花は必死に笑いをこらえすぎて、
震えがとまらなかった。

「我慢しないで、笑えって。」

「いや、無理無理無理…。」

 笑いをおさえるのってこんなにも
 大変だったのかと感じた梨花だった。
 公共の施設だと思い、大きな声出しては
 いけないと感じてしまった。

「んじゃ、行くか。
 2番線だから、電車来るの。」

「…う、うん。」

 朔斗の後ろを慌てて、追いかける梨花。
 学校をずる休みして、2人で出かけるなんて、
 初めてだった。

 鼻に絆創膏が付いてて、
 ツイてないなと感じていたが、
 今思えば、それはそれでラッキーだったなと
 感じた。

 
 駅のホームにいた鳩が2羽トコトコ歩いてた思うと
 バサッと飛び立っていった。