朝起きるのが嫌だった。

朔斗にまた怒られたらどうしようと
思い出す。

猫のミャーゴに会えないこともそう、
朔斗との関係も結局分からずじまい。

あれ、イライラしていることは
本当は来てほしいことの表れってことなのか。

そんなことを考えながら、眠い体を起こし、
制服に着替えて、窓を開けた。

外は少し風が冷たかった。

吐く息が白くて、もやが掛かっていた。

ふとベランダを覗くと見たことのあるものがいた。

朔斗の家で飼っている猫のミャーゴだった。

どこから来たのか、梨花のベランダに入ってきている。首輪の鈴が鳴り響いてる。

「ミャーゴ。こっちだよ、こっち。」

 思わず、声をかけて、近くに引き寄せた。
 朔斗の家の窓は少しだけ開いていた。
 そこからやってきたのだろうか。
 
 抵抗を感じることもなく、ミャーゴは梨花の
 胸の中で落ち着いていた。

 顔を耳のところまで洗っている。
 雨が降るのだろうか。

 見ているだけで癒される。
 ゴロゴロと喉を鳴らしている。

 梨花はそっとミャーゴのあごを撫でた。
 とても嬉しそうに喜んでいる。
 
 このままペットとして飼いたいと思ったが、
 猫アレルギーを持つ梨花には難しい。

 

 朔斗はベッドから跳ね起きた。
 目覚まし時計は無意識に止めていたようで
 二度寝していたようだ。

 ずっと横で眠っていたミャーゴがいなかった。
  
 どこに行ったのか探すと
 家のどこにもいないことに気づく。

 部屋の窓が少し開いていた。
 鍵を閉め忘れたのかと窓を閉めようとすると、
 制服姿の梨花がミャーゴを抱っこしていた。

 なんであんなところにいるんだと
 苛立ちが増す。


「ミャーゴ!?」

 窓から想像以上に大きな声が出ていた。
 近所の犬も吠えるくらいびっくりしたようだ。


「朔斗?!
 おはよう。昨日はごめんね。
 ミャーゴが、私の部屋に入って来てて
 びっくりしてた。」

「……取りに行くから下におりてきてて。」

「う、うん。」

 梨花は、ミャーゴを抱っこして、
 階段を駆け下りる。

「あれ、梨花、起きたの?
 朝ごはんできたよ。
 え、何、その猫。」

 母が掃除機を持ちながら言う。
 猫の姿にびっくりしていた。

「これ、朔斗の家の猫だから
 返してくるね。」

「ん?どうやって、ここに?」

「ベランダ登ってきたみたい。」

「へぇ、ベランダね。
 すごいね、猫って」

 感心する母をよそに梨花は朔斗が待つ
 外に向かう。

 ミャーゴはご機嫌よくまだゴロゴロしている。

「はい、ミャーゴしっかり見てよね。」

 ミャーゴを朔斗に明け渡すと
 ミャーゴは少しご機嫌斜めになった。

「一緒に寝てるんだから、しっかり見てるよ。
 勝手に出て行ったのはそっちだよ。」

「私が恋しかったんじゃない?
 会わなかったから。」

 ミャーゴはシャーシャーと朔斗に爪を見せていた。

「ほら、怒っている。」

「そ、そんなことないっつぅーの。」

「そう?
 んじゃ、朝ごはんまだだから。」

「梨花!」

 久しぶりに聞いた。
 朔斗から梨花と呼ばれた。

「え?」

「昨日は……悪かった。」


「…んー、そう。」


「ああ。」


「わかった、それってごめんなさいってことね。」


「そうとも言う。」


「きちんと謝れないのは昔から同じだよね。
 朔斗。」

 ニコッと笑って返す梨花に少し不機嫌になる朔斗。
 それでも嬉しそうな様子だった。

 梨花は、昔のようには難しいが、
 このまま仲良くできたら良いなと思った。