「今朝もこう君に会ったんだ~」
「またそれかよ」

 啓汰が眉間に皺を寄せた。

「だっていつ見ても惚れ惚れしちゃうんだもん。精悍な顔立ちと引き締まった体がたまんないんだよね~」
「それももう聞き飽きたから」

 更にうんざりした表情を向けてくる。

「でもね、ああいうクールなのに限ってツンデレだったりするんだよ。何か想像するだけでにやけてきちゃう」
「あっそ」

 露骨に嫌な顔を見せた啓汰を、少しだけ茶化してみたくなった。

「何? もしかして焼いてる?」
「は? ちげーよ、バカ!」
「ムキになってるー! やっぱ焼いてんだーぁ」
「ちげーって言ってんだろ!」

 嫉妬心を露にした啓汰に内心ほくそ笑みながらも、これ以上茶化して本気で機嫌を損ねられては本末転倒だ、と話題を変えようとしたところで、タイミング良くホームに電車が到着した。
 はぐれないように啓汰の背中にぴったりとついて電車に乗り込むと、いつものように体を半回転させた啓汰と向き合った。
 どうやら怒ってはいない様子だ。

「今日、どうする?」

 金曜日はふたりで外食して帰るのがお決まりの流れになっているが、一応毎回聞くようにしていた。

「恵梨香の好きなとこでいいよ」

 そう答える啓汰に、恵梨香は毎回違和感を覚える。
 外食して帰るのかどうかを聞いているのに、啓汰がいつも行き先を答えるからだ。けれど、この噛み合っていない会話が、恵梨香の心を満たす。
 恵梨香は自宅近くの駅前に出来た雰囲気の良さそうなイタリアンを提案してみた。

 クリスマスが近い。お互い恋人もいない。そろそろ友達以上恋人未満の関係から抜け出したいところだ。
 周りのカップルのラブラブぶりに触発され、啓汰が恋愛モードに突入してくれれば……と期待を込める。