放課後ミステリーツアーは二日目。三人目の被害者である赤川瑞穂(あかがわみずほ)の殺害現場で月ノ瀬は一日目よりも少しだけ興奮した表情を見せた。
「雰囲気いいねー! なんか森の中って感じで」
「実際、周りは森だからね」
 木々に囲まれた神社は夕闇に包まれ、方々から聞こえるカラスの鳴き声がとても似合っていた。
 赤暗くなっていく景色で、月ノ瀬は首が置かれた場所の印であろう、チョークの円を見つけて駆け寄った。
「ねぇ亜希君。ちょっとこの被害者の話をしてくれない?」
 目を閉じて少し顎を上げる月ノ瀬に、僕は辺りを伺いながら気付かれないように浅く溜息をついた。
「被害者の名前は赤川瑞穂。中学一年生。首が発見されたのは早朝、お参りに来た老人男性によって。場所は今、君が立っている場所だ。体は数十個に刻まれて彼女が通っている学校の校庭に撒かれていた。こんな所で良いかな?」
「……うん。ありがとう」
 月ノ瀬はそのまま動かず、僕らの周りは少しの間、静寂に包まれた。
「ふふっ! うんうん! 中々だねー」
 月ノ瀬は顔を下ろし、開いた目元を緩ませながら頷いた。視線は僕の方に向けられていたけど、きっと僕じゃなくて別の何かを見ていたように思う。
「亜希君。私だんだん分かってきたよ。この前言ってた事」
「そう。流石だね」
「なーんか。やっぱりまだ隠してる事あるね? もー。いつもなら教えてくれるのにぃ」
 僕は何も答えず視線を逸らした。今、目を合わすわけにはいかなかった。
「きっとさ。ここからだよね始まったのは」
 僕は何も言わない。
「多分、この三回目で変わってる。そして四回目で更に違う何かが目覚めてると思う。だって殺し方が明らかに違うもんね。なーんか分かってきたなぁ。明日はとうとう四人目か。牧原紫……亜希君、一緒に来てくれるよね?」
 僕は視線を外したまま頷いた。
「おっけー! じゃあ帰ろっか! うんうん! いい感じいい感じ!」
 跳ねるように階段を駆け下りていく月ノ瀬の後ろ姿を見て、僕は自分の計算を修正した。
 このままだと、五人目まで回れてしまうかも知れない。それに、この様子じゃ五人目まで回らずとも月ノ瀬は答えに気付いてしまいそうだ。
 僕は月ノ瀬を追いかけながら、もう一人の「緑」について考えていた。

 ……いや、考えておかなくてはならなかった。