「今から行く建物があっちに見える。何分で着くか予想して、負けた方が勝った方の言うことを聞くとか」


「それ、葵さまは知ってるよね? 私の方が不利だよ」


「そうか。俺は無条件で命令できる権利があるけど、お前にはないからチャンスをやろうと思っただけなのにな」


「それならやってみようかな」


「もうダメ」


「ええっ」


 ふたりで楽しく騒いでいるうちに、さっき疑問に思っていたこともすっかり忘れてしまっていた。


 目的地に到着して、遥か上にそびえたつホテルを見上げる。


このホテルを雑誌で見たことがあるけど、宿泊するのはもちろんショップやレストランも超高級店ばかりで私には敷居が高い。


回転扉を通ってホールに入ると、上からはいくつものシャンデリアがかかっていた。


キラキラと輝いていて、まるで別世界にいるかのよう……。


そしてエレベーターで一気に上まで昇る。


最上階に降り立ち通路を進むと、レストランの入口が見えた。


「会員制のブッフェに招待してやるよ」


「え……」


「合宿の夕食を食べそびれて残念がってただろ。仕方ないから、庶民の願いを叶えてやろうと思って」


突然のサプライズに感激してしまう。


 もう、本当に嬉しくて仕方がない。