台風の軌道がそれたことにより、次の日すぐに帰れることになった。


 飛行機に乗って移動する間も、葵さまは相変わらず優しい。


 そして窓から見える景色にはしゃいでいたり、写真を撮ったりする姿は本当に無邪気で見ていて微笑ましいほど。


 旅先でハメを外したくなるのもあるだろうけど、普段は相当なプレッシャーの中にいるのだと思わずにはいられない。


 不眠症もそういうところからきているなら、この旅で少しでも心が癒されているといいな……。


空港に到着してそのまま家に帰るものだと思っていたら、違ったみたい。


 タクシーに乗ると、葵さまは予想外の行き先をドライバーに告げた。


「家に戻らないの?」


「ああ、せっかくだから……知り合いの店に顔を出そうかと思って」


いつも一緒に車に乗っているときは眠っている葵さまも、今回は起きていた。


「眠らないの」


「昨日はぐっすり眠れたからな……」


「いつも寝てるよね?」


「まあ……そう思うならそれでいいけどな」


え、どういうこと?


いつもは眠れてないの?