ここなは、光一より、早く休暇に入った。
 二日目に光一と旅行へ行くことになっていた。ここなは、旅行の準備をした。
 一階、キッチンでさゆりは夕飯の準備をしていた。
 がらがら、と引き戸があいた。ここな、あらわれる。
 「ああ」
 と、さゆり。
 「うん」
 ここな、リビングに入る。
 「準備はすんだの?」
 「うん」
 「お父さんとあやめには、内緒ね」
 と、ここなはつづけた。
 「わかってるわよ」

 夕方。
 松島家一階、リビング。
 食卓に敬三、さゆり、ここな、あやめがついている。敬三とさゆり、ここなとあやめが隣り合っている。
 「ここな、明日、旅行だって」
 ここな、黙って食べている。
 「いいなあ。お姉ちゃん」
 「親にも行先いえないのか」
 と、敬三。
 ここな、黙って食べている。
 「おい、なんとかいえよ」
 ここな、黙って食べている。
 「おい、親がきいてんだぞ」
 「職場の人には言ってあるのよね」
 と、さゆり。
 「うん」
 ここなは、嘘は言っていない。
 「ああ、カスミとかいうこか」
 と、敬三。
 「と、とにかく職場の人にも言ってあるなら、いいじゃないですか」
 と、さゆり。
 「なんか、お姉ちゃん怪しい」
 と、あやめ。
 「何が」
 と、ここな。
 「例えば、彼氏と秘密のデートなんて」
 敬三が噴き出す。
 「お父さん」
 と、あやめは笑った。
 「お父さん」
 と、さゆり。
 「ああ」
 と、敬三。
 「もう」
 と、ここな。
 敬三はフキンで机をふいた。
 「あやめ、変なこと言わないでよ」
 と、ここな。
 「だって、誰にも内緒の旅行なんて、あやしいんだもん」
 と、あやめ。
 「職場の人には言ってあるっていってんじゃん」
 と、ここな。