その人はいつも、

 雨の日に現れる。


 そのことに気づいたのは、

 ちょうど一年前の今頃だった。


 コンビニ前の通りと十字に交わって西に伸びる道路は、

 駅前から続く道でもあるので、それなりに広い。

 
 その道路の北から南に掛かる歩道橋。

 レジ側からは死角になる部分もあるけれど、

 通りに面した雑誌コーナーに立つと端から端までよく見える。

 
 一年前の、雨の降る夜。

 夜中、雑誌を並べ直しながらふと窓の外を見やると、

 今と同じように、歩道橋の上でぼんやりと佇む彼女がいた。


 雨に滲む信号の灯りが白い傘をぼんやりと照らし出していて、

 濡れた空気が、より一層彼女の輪郭を曖昧にさせていた。


 …何をしているのだろう、

 あんなところで。


 そう気になりだしたのは、2度3度と同じ姿を見るようになってからだった。


 10分、15分…

 レジ打ちをして、フェイスアップをして、

 伝票を書き終わってから再び雑誌コーナーに戻って外を見てみると、

 彼女はその場所に立ったままだった。

 ただ雨の中で、ぼんやりと。

 
 それから1時間くらい経っただろうか。

 いつのまにか彼女は消えていた。

 
 ある時はコピー機の脇で、

 ある時はゴミを片付けているときに、

 ある時は今日のように外に出てから、

 その細い線の、同じ女の人を目にするようになった。


 そして数ヶ月が経ち、

 俺が気づいたのは、

 彼女が歩道橋の上に現れるそのどの日も、

 雨が降る夜、ということだった。