その後、帰ってきたご両親とじいやに報告。
「おめでとう、陽くん、渚ちゃん」
「ありがとうございます」
ニコニコと笑うお義母さんとおめでとうとだけ伝えるお義父さん。

ただじいや、いやお祖父様は難しい顔をしている。
「お祖父様、」
「おじょ、いや渚さん。野暮なことだとわかって
います、本当に陽でいいのですか?」
「え、」
「孫を不出来だと言っているのではありません。
どこにだしても恥ずかしくない自慢の孫です。
ですが、婚約の発表をすれば少なからずの
誹謗中傷を受けることになります。
それでも一緒になる覚悟はありますか」

「覚悟の上です」
「俺が一生渚さんを守っていきます」
テーブルの下に隠れている私の手を優しく包んで
力強く答えてくれた。

職場で結婚を伝えると祝福してくれた。
純粋におめでとうと言ってくれるが中には
相手は誰だ、逆玉した奴は羨ましい
など聞きたがっていたが幼なじみとだけ伝えた。

響には伝えてある。
「ていう感じでプロポーズされました」
「・・・やっとか」
「え、」
「暁くんが執事のときから渚に好意があるのは
知ってたよ。でも渚はそれに気づかないし、
こっちとしてはずっと焦ったかったわけ。
でもお付き合いからプロポーズまでは思ったより
早かったからびっくりしてる」
「陽の好意のことそんな早く気づいてたんだ」
「そりゃバレバレだったよ」
(なんだか恥ずかしいな)

その後、お父様が開いてくれた小さなパーティーで
陽との婚約発表。
「未熟者ですが支え合っていきます。
どうかあたたかく見守ってください。」

この婚約発表はすぐに一般の人にも知られるようになり職場にも伝わった。

大丈夫?と心配してくれる声もあった。
本人たちが幸せになることが1番だよ
と応援もあった。

でも
「男を見る目がない」
「どうせ男の方は金目当てだろう」
とか言われることの方が多かったと思う。

ーその日の夜ー
「陽」
「渚」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ、こうなることも覚悟してたし。
中学、高校の友達も心配してくれてるから、
心が軽くなってる」
そう言ってやつれた顔で笑っていた

「ごめん、ちょっと横になる」
「うん」
ベットに倒れるとこちらに背中を向ける。

陽のスマホ画面。
チラッと見えたのはSNSの画面と
令嬢の婚約発表の文字。

自分のスマホで調べると
「ご令嬢様が可哀想だろ。解放しろよ」
「どうせあの手この手で丸め込んだんだろう」
「こんな男を選ぶなんて見る目ないんだな」
こんなコメントばかり。

(こんなんじゃダメだ、どうすれば)
ー令嬢ー
ー金目当てー
(だったら)
たった一つの提案。みんなを説き伏せるのは時間が
かかるだろうけどこのままじゃ陽が危ない。

うとうとしていた陽を起こす。
「陽、ちょっといい」
「どうしたの?渚」
あくびをして私を抱きしめる。

「陽、私考えたことがあるの」
「なに?」
「実はー」
聞いていくうちに意識が覚醒してきて、
私を見た。

「それ、本気で言ってる?
もしかして誹謗中傷があるから?
俺なら平気だよ、大丈夫だから。
だから、そんなこと」
「残念なことにそういうのは陽だけじゃないんだよ。一つ一つ受け止めていたらキリがない。
多勢に無勢。だったらその理由を捨てようと思って」
「ごめん、俺が」
頬をつねってその先は言わせない。

「陽、あの時言ったでしょ?
覚悟の上って。大丈夫だよ。きっとわかってくれる」

ーその日の夜ー
「お父様、少しいいかな、相談があるんだけど」
「なに?」
電話口、いつもと変わらない優しい声。
どんな反応か怖い、怒られるか、飽きられるか。
(今の私に考えられる案はこれだけ)

「令嬢という肩書きを捨てるにはどうすれば
いい?」