「なんで言ってくれなかったんだろうね、薫」
薫を部屋に呼ぶ。
「陽なりの考えがあるんですよ、きっと」
「問いただせばよかったかな」
「それは僕にも分かりません」
「このまま、終わるのかな」
「終わる?
・・・お嬢様は陽にどうして欲しかったんですか?」
「伝えて欲しかった」
「だったらこっちから言いたいことを言っちゃいましょう。家は知っているんですか?」

「知ってるけど」
「モヤモヤしていてはつまらないです。
ぶちまけちゃいましょう」
「・・・分かった、行ってくる」
「それじゃあ行きましょうか」
「薫も行くの?」
当然と言うようにドアを開けた。

「送っていくだけです。
中まで入る野暮はしませんよ〜」
「分かった」
陽の家に行くまでの道を薫と話しながら歩く。
じいやのこと、薫が来る前の陽との生活。

「陽のことばっかりですね〜」
ニコニコしながら言われてから気づいた。
「ご、ごめんね。今は薫といるのに」
「いいですよ、誰の話題でもおじょー様と
話せるのは楽しいですから」
「陽はね、5年間一緒にいたんだ。
これからも一緒だって思ってたから
びっくりしてるし悲しい。
辞めるって言ってくれなかったこと」

「やめる?おじょー様さっきからやめるとか終わる
とかなにを」
「ここまでで大丈夫だよ、ありがとう薫」

「・・・分かりました。
何かあったら連絡くださいね」
なにか言いたそうに狼狽えたけど帰っていった。

チャイムを鳴らすとお母さんの声。
「どちらさまですか、あれ、渚ちゃん?
どうしたの?」
「急にすみません。陽、いますか?」
「陽くん?いるけどちょっと待ってね。
あ、上がってちょうだい」
「おじゃまします」

リビングで座ると、廊下から2階に陽を呼ぶ。
「陽くーん、渚ちゃんがきてくれたわよー」
2階から慌ただしく降りてくる足音。
「お嬢様、どうしたんですか?」

「うん、ちょっと陽に聞きたい事があって」
お茶を出してくれたお母さんにお礼を言って
向き直る。

その雰囲気を察してか、
「お母さん、ちょっとお買い物行ってくるから。
渚ちゃん、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」

出かけて陽と2人きり。
「それで、その用件は、」
「用件ってわかってるんじゃないの?」
わからないらしく首を傾げた。

「言いづらい事だって分かってる。
でもやっぱり納得できない」
「薫さんからにでも聞いたんですか?
すみません、やはりあなたには先に言うべきでした」

「陽がいなくなるって思ったら怖くなったの。
一緒にいるのが当たり前だったから。
これからもずっと隣にいてくれるんじゃないかって」

出会いから今までたくさんの思い出が駆け巡る。

「やめるんだったら主従関係はなくなる。
でも少し嬉しかった。
対等になれるんじゃないかって」

憧れていた。普通に歩くカップルに。
陽から向けられる優しさも、当たり前のように隣に
いることも執事だからというのはわかってた。
いつか本気で好きな相手が陽の隣にいることを考えた

「初詣の時、あんなこと言っておいて都合がいいのも分かってる」

でも嫌になってしまった、
「これからも隣にいてほしい。
たくさんのことをしたい。
陽が好きです。
私と付き合ってください」