お祖父様が引退する時俺は部屋の外で待機していた。
お祖父様の宥めるような声とお嬢様の泣き声。

何を話しているのかはわからない。
しばらくしてお祖父様が部屋から出てきた。
「あとは頼んだぞ、専属執事」
「、はい」

微笑んでいるような泣きそうな顔で託された。
「失礼します」
崩れ落ちて肩を震わせて泣いている彼女に戸惑うと
同士に、何もできない自分に腹が立つ。

「陽」
「はい」
片膝をつくと燕尾服を握り胸に顔を埋める。

「陽はいなくならないよね？」
「大丈夫ですよ。
俺はずっとあなたのそばにいます。」
顔を上げたお嬢様にハンカチを渡す。

お嬢様が笑うと楽しい。
泣くと自分のことのように胸が痛い。
あの時俺はお嬢様を泣かせないと誓った。

「お嬢様、今よろしいですか」
控えめのノックに陽の声。
「うん」

部屋に通して椅子にすすめたが断られた
「先ほどは大変申し訳ありませんでした。　
お嬢様の気持ちも考えずあんなことを。
少し考えればわかることでした。
ですが俺は渚様のことが大切なことには変わり
ありません。これだけは覚えていてください。」

真剣な目。その不意にドキドキしてしまう。
「わかった。私もさっきはごめんなさい」

「お嬢様、もうそろそろお休みになられてはいかが
ですか」
ベットに横になり肩まで布団をかけてもらう。

程なくして規則正しい寝息が
聞こえる。
「おやすみなさいませ、お嬢様」
　
その後、知らせを聞いた旦那さまから着信。
怒られること、クビになることを覚悟で電話に出る。
予想通り、お嬢様を危険に晒したことを怒られた。

お嬢様に怪我をさせなかったこと、
救出が早かったことは認めてくれた。

俺の怪我も心配をしてくれて、
いい環境に恵まれたと思う。

「これからもよろしくね」
「お任せください」
電話を切って大きく息を吐いた。
「よかった、クビになるかと思った」
安心してベットで寝る事ができた。

お嬢様や薫さんから旦那さまへの助言があったこと、
助言がなくても解雇する気は元からなかったことを
知るのはまた別の話。