しばらくして執事&メイド喫茶、開店。
「おかえりなさいませお嬢様/ご主人様」

「お荷物はカゴに仕舞わせていただたきます」
「あ、ありがとう」
丁寧にバックを受け取りカゴに入れる。

「メニューはこちらにございます」
美術部員が書いたメニュー表を渡す。

「私、プリンとアイスココア」
「私はカフェラテ」
「かしこまりました、少々お待ちください」

メモを取り、隣の空き教室へ。
「1番、プリンとアイスココア、カフェラテ一つずつ
お願いします」
「4番、リンゴジュースと、プチフールセック」
市販品のお菓子と飲み物をトレイに乗せて提供する。

「暁、3番持っていって」
「わかった」
三上さんからトレイを受け取って3番の席へ。

「お待たせしました。
オレンジジュース2つ、プチフールセックで
ございます」
「ありがとうございます」
「ごゆっくり、お楽しみください」

嬉しいことに好評で客足が絶えない。
(さて、そろそろ交代の時間かな)
「暁、交代だから学祭まわってきなよ」
「わかった」
時計を見て調理班に声をかけてから行こうと思った。

「あ、」
衝撃と小さな悲鳴。
振り返ると、女の子が立ち止まっていた。
ジュースが転がって中身が溢れていて
察した。
(あー、どうりで濡れた感じがしたわけだ。
蓋が緩かったか)

屈んでペットボトルを立て転がっていた蓋を拾いちゃんと締めて渡す
「大丈夫?怪我してない?」
(見た感じ洋服は濡れてないな)

「うん」
「よかった。でも危ないから走ったらダメだよ」
なるべくゆっくり声に出す。

「ごめんなさい」
今にも泣きそうな女の子に少し罪悪感。  
「るみ!」
父親らしい人が慌てて駆け寄り、立ち上がる。

(ちょっと目を離した隙に、てやつか。
会計してたみたいだし)
「すみません、娘が粗相をしてしまって。
せっかくの洋服にシミが。」
「このくらい平気です。」
「せめてクリーニング代を」

予想外の言葉に慌てて首を振る
「いえ、大丈夫です」
「ですが」
「このくらい簡単に落ちますから。」
すごく申し訳なさそうな顔。

(簡単には引いてくれそうにない。どうしよう)
しばらく考えた。
「あの1年生の縁日はもうご覧になりましたか?」
「え?いえ、まだですけど」

困惑しながらも答えてくれた。
「ヨーヨー釣り、射的、輪投げを楽しめるんです。
校庭で行われている2年生の模擬店。
そこで焼いているたこ焼きは絶品らしいです。」
「あの、さっきから何を。」

「準備も本番も、私たちは来てくださった方が楽しんでくれるように試行錯誤をしているんです。
もちろんこの子にも。」

女の子はじっと不安そうに俺を見ている。
「楽しくない気持ちのまま過ごすのは
もったいないです。
お金は楽しむために使ってください。
クリーニング代に渡すよりよっぽど
価値のある使い方になるはずです」

唖然とした表情で俺を見ている。
「あ、あの」
「すごく、大人な言葉ですね。」
「あ、えっと。・・・すみません、偉そうなことを」

我に返って謝ると今度は父親が首を振る。
「い、いえ。そうですよね。楽しまないと
いけませんよね。気づかせてくれて
ありがとうございます」

「学園祭、楽しんで行ってね」
「うん!」
女の子はパァと明るくなった。

父親は頭を下げて、女の子は手を振って出口に
向かっていく
「るみ、なにか食べたいものある?」
「たこ焼き!」