ー誕生日当日ー
いつもの三つ編みではなくお団子のように
まとめた。
旦那様からのプレゼントの薄いピンク色のドレスを
身にまとっている。

「おじょー様、ネックレスはこちらでよろしい
ですか?」
「うん、お願い」
「失礼します」
薫さんは慣れた手つきで留め具をつけた。

ー会場ー
「17の誕生日おめでとうございます。
いや〜、お母様に似て別嬪さんになられて。
も少ししたら、他の男が黙ってませんな」
「ちょっと飲み過ぎよ、アナタ。
すみません」
「いえ、お祝いありがとうございます。」

招待客に挨拶するお嬢様のそばで俺は給仕に勤しむ。
(今日はお嬢様の誕生日であり、奥様の命日だ)

ー数年前ー
「奥様、ですか?」
「うん、私を産んですぐに死んじゃったんだって。
小さい頃はよくじいやとかリーダーが話していたけど私から聞くことはしないかな。」

「どうして、ですか?」
「単純に興味がないから、かな。
どんな見た目でどんな性格で、どんな生活を
していたか聞いてもそれ以上に知りたいことは
なかった」
そう話すお嬢様はどこか寂しそうに見えた。

「る、陽」
「はい、いかがなさいましたか?」
お嬢様の声で一気に現実に戻る。

「席を外すから少しの間よろしくね」
「かしこまりました」
席を立ってお嬢様は会場を出て行く。

「そこの君、」
「はい、どうなさいましたか?」
振り向くと年配の男性が立っていた。
奥のテーブルに置いてあるグラスの1つを
持っていた。

薫さんは近くで別の方の相手をしているがこちらの
様子には気づいていない。
見た目はなんてことないジュース。

「彼女、ずっと話していて喉が乾いてるだろうから
飲み物渡してくれないかい?」
「ありがとうございます。」
お嬢様の出て行ったドアを見るいやらしい目に
ゾッとした。
(これを飲ませてはいけない)
第六感がそう伝えている。

グラスを右手で受け取ると男性は微笑んで
離れて行った。
こちらを見ないことを確認して早歩きでテーブルに
向かい置いてある同じグラスを左手に持ってお嬢様を待つ。

お手洗いから戻る時、会場のドア近くで何人か
話していた。
「月島さんたちは今年もいないな」
「なんか倒産したって聞いたわよ」
「私は買収されたって聞いた」
ヒソヒソとしていたが私に気づくと愛想笑いで
会場に入って行った。

「陽」
「お嬢様」
戻って来たお嬢様は近くの椅子に座る。

「それ持って来てくれたの?」
「はい、こちらでよろしかったですか?」
「うん、ありがとう。陽も飲んでいいのに。
ずっと立っていて疲れるでしょ?」
左手のグラスをお嬢様に渡す。

「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて」
悟らせないように自然な感じで色、匂いを確認して
口をつける。口内に違和感もない。
飲み込んだ後も特に何もない。
(気のせいだったのかな。
でも何かあってからじゃ遅いし)

「おいしい」
呟くお嬢様にも変わった様子はない。
(でも、万が一もある。注意しとこう)

ー2時間後ー
(頭クラクラする。体熱い)
お嬢様には平然を装い少し離れる事を、
薫さんに具合が悪いと伝えて会場を出て今に至る。

あのジュース以外何も摂取してないから、
100%あれが原因で間違いない。
(まさかここまで悪くなるなんて。
やっぱり疑ってよかった。
これがお嬢様だったら、・・・
考えたくもない)

ふらつく足、ぼやける視界、とまらない汗。
壁を支えに階段に座る。
震える手でネクタイを緩め、シャツのボタンを一つ
開ける。

だんだん意識が遠くなる。