陽が通う中学校で6月の初めに修学旅行がある。
今日は陽が帰ってくる日、
そして陽の誕生日でもある。
懐中時計の入った箱を手中に収めて悩んでいた。
舞踏会の用紙を提出したあの日。
ショッピングモールの反対側にある小さな
アンティークショップ。
「こんな場所があったんですね」
「最近できたみたいなの。」
ドアを弾くとカランと鈴の音がして来店を告げる。
ネックレス、ピアス、指輪、様々なアクセサリーが
所狭しと並んでいる。
その一角にある、懐中時計に釘付けになった。
銀色の蓋には植物の模様が浮き彫りされている。
内側は中央部分は青、文字盤は白でローマ数字。
針も銀色。カチッ、カチッと秒針が進む。
「それが気に入りましたか?お嬢さん」
通路から店主らしいお爺さんが出てきた。
「あ、はい。珍しいなと」
「そうですか。ゆっくり見ていってくださいね」
「はい。あの懐中時計、手にとってもいいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
秒針が進むたびに微かに振動を感じる。
「それは月桂樹ですよ」
パタンと蓋を閉じた。
(月桂樹、花言葉はたしか栄光、勝利、栄誉)
チェーンの部分に値札が貼られていた。
「あの、これ買います。」
「お気に召したものがあって良かったですね」
明希は嬉しそうに車を発車させる。
「お父様が言ってたことなんだけど」
「旦那様?」
「私から見て曾祖父様が当時の執事のに、
懐中時計を渡したことが始まりなんだって。
自分が死んだら棺に入れてもらうために。」
「そうだったのですね」
「お祖父様とじいや、お父様とリーダー。
主は近しい執事に
懐中時計を送っていた。
私が送るとしたら陽だから」
時計の入った箱を握る手に少し力がこもる。
(お祖父様はじいやに感謝を、お父様はリーダーに
友情の意味で送っていた。
私はどんな風に渡そう)
7時になった頃に陽は帰ってきた。
「ただいま帰りました。お嬢様」
サッと箱を後ろに隠す。
「おかえり、陽。楽しかった?」
「ええ、とても」
「疲れたでしょ?
今日は休んでいいよ」
笑顔を取り繕っていた。
一瞬だけ見せた驚いた表情を見逃さない。
「お心遣い感謝します。
お言葉に甘えて今日は失礼します」
正式な執事になってから毎年欠かさず誕生日を
祝っていた。
なのに今回は祝えなかった。
今まではなにも思ってなかったのに考えてしまう。
(懐中時計だから、だよね。
伝えたいことがまとまらない。
なんて言って渡せばいいの?)
手に取ったノートを見つけて思いつく。
「口に出さないなら書けばいいんだ」
引き出しを見て便箋があることを確認する。
紙を無駄にしないためにノートに書いては二重線を引いての繰り返し。
明日の準備してから考えようと鞄を開く。
(あ、これあれだ。
テスト勉強しないといけないのに部屋の
掃除しちゃうやつ)
「はぁ、こんなに難しいんだ。想いを伝えるのって」
(そもそも一言、誕生日おめでとうだけなのに)
いなかった時のために誕生日おめでとうとだけ書いたメッセージカードを持って陽の部屋へ。
今日は陽が帰ってくる日、
そして陽の誕生日でもある。
懐中時計の入った箱を手中に収めて悩んでいた。
舞踏会の用紙を提出したあの日。
ショッピングモールの反対側にある小さな
アンティークショップ。
「こんな場所があったんですね」
「最近できたみたいなの。」
ドアを弾くとカランと鈴の音がして来店を告げる。
ネックレス、ピアス、指輪、様々なアクセサリーが
所狭しと並んでいる。
その一角にある、懐中時計に釘付けになった。
銀色の蓋には植物の模様が浮き彫りされている。
内側は中央部分は青、文字盤は白でローマ数字。
針も銀色。カチッ、カチッと秒針が進む。
「それが気に入りましたか?お嬢さん」
通路から店主らしいお爺さんが出てきた。
「あ、はい。珍しいなと」
「そうですか。ゆっくり見ていってくださいね」
「はい。あの懐中時計、手にとってもいいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
秒針が進むたびに微かに振動を感じる。
「それは月桂樹ですよ」
パタンと蓋を閉じた。
(月桂樹、花言葉はたしか栄光、勝利、栄誉)
チェーンの部分に値札が貼られていた。
「あの、これ買います。」
「お気に召したものがあって良かったですね」
明希は嬉しそうに車を発車させる。
「お父様が言ってたことなんだけど」
「旦那様?」
「私から見て曾祖父様が当時の執事のに、
懐中時計を渡したことが始まりなんだって。
自分が死んだら棺に入れてもらうために。」
「そうだったのですね」
「お祖父様とじいや、お父様とリーダー。
主は近しい執事に
懐中時計を送っていた。
私が送るとしたら陽だから」
時計の入った箱を握る手に少し力がこもる。
(お祖父様はじいやに感謝を、お父様はリーダーに
友情の意味で送っていた。
私はどんな風に渡そう)
7時になった頃に陽は帰ってきた。
「ただいま帰りました。お嬢様」
サッと箱を後ろに隠す。
「おかえり、陽。楽しかった?」
「ええ、とても」
「疲れたでしょ?
今日は休んでいいよ」
笑顔を取り繕っていた。
一瞬だけ見せた驚いた表情を見逃さない。
「お心遣い感謝します。
お言葉に甘えて今日は失礼します」
正式な執事になってから毎年欠かさず誕生日を
祝っていた。
なのに今回は祝えなかった。
今まではなにも思ってなかったのに考えてしまう。
(懐中時計だから、だよね。
伝えたいことがまとまらない。
なんて言って渡せばいいの?)
手に取ったノートを見つけて思いつく。
「口に出さないなら書けばいいんだ」
引き出しを見て便箋があることを確認する。
紙を無駄にしないためにノートに書いては二重線を引いての繰り返し。
明日の準備してから考えようと鞄を開く。
(あ、これあれだ。
テスト勉強しないといけないのに部屋の
掃除しちゃうやつ)
「はぁ、こんなに難しいんだ。想いを伝えるのって」
(そもそも一言、誕生日おめでとうだけなのに)
いなかった時のために誕生日おめでとうとだけ書いたメッセージカードを持って陽の部屋へ。


