「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、陽」
いつもの時間、陽は大きめの箱を持ってきた。

「こちらでよろしいですか?」
渡された箱、蓋を取ると
綺麗な青緑色のパーティードレス。
膝丈のフレアスカート、
肘までの袖の部分はシースルーになっている。

「ありがとう、陽。嬉しいよ」
「お気に召したようで安心しました。」
心からホッとした表情。

「もしかしてこの前帰りが遅かったのって」
「ええ、これを」

着替えると一気に気分が上がった。
「どうかな、陽」
「とてもお似合いですよ、お嬢様」
一回転するとフワリと広がるスカート。
「ありがとう」

髪をまとめてもらう。
「お嬢様、こちらをつけさせてもよろしいですか」
陽が持ってたのは青い飾りのついた黒いチョーカー。
「いいけど、どうして」

陽はニコリと笑う。
「ただお嬢様に似合うと思っただけです」
「そう?」
カチャリと金具をつける。

ー講堂ー
「渚ー!」
「おはよう、響」
「渚、今年のも可愛いね」
「ありがとう」

講堂にはクラシックが流れている。
「あれ、渚。それって」
自分の首を指さす
「これ?似合うと思うからって陽が」
「そ、そっか」
笑顔は引きつっていた。

「響?」
「いや、なんでもないよ」
(やるねぇ、執事くん)

いつもの始業時間と同時刻に始まった。
事前に決めていた男女ペアで踊る。

相手は緊張で力が入りすぎて、全然集中できてない。
視線は交わらず、何度も転びそうになった。
「というわけではっきり言って楽しくなかったんだ」
「そうだったんですか。それは残念でしたね」
帰宅後、陽は同情してくれた。

「やっぱり、陽と踊るのが1番かな」
「ありがとうございます」

部屋でチョーカーの金具を外してもらった。
すごく楽になって首を触る。
(ピッタリくっついてたから違和感あったんだよね。
まるで)
「首輪、みたいな」
呟きは陽に聞こえていた

「お嬢様?」
「いや、なんでもない」
「あの、5分ほど時間をくださいませんか?」
「いいけど?」
「ありがとうございます」
陽は自分の部屋に戻ると言って、再び戻ってきた時には仮面をつけて戻ってきた。

「それは?」
「この前かけた曲が仮面舞踏会だったので
勢いで作っちゃいました」
仮面をずらして照れていた。

「あの、お嬢様のもあるのですが」
おずおずと出された黄緑色の仮面。
(たまにはいいかな)

仮面をつけると陽は片膝を床について私の手を取る。
「一度きりのマスカレード。
私と踊っていただけますか」
「ええ、喜んで」
軽く微笑んで手の甲に口づけをした。

私の手を引いて流れるように仮面舞踏会を流す。
ゆったりとした音楽。
仮面越しでわかるほど慈愛で満ちた優しい目。

たった一曲だけ。それでも
なにものにも変えがたい時間になった。