「起きていますか?お嬢様」
ノックの音と声が聞こえてから私の1日は始まる。
「今起きた。」

「失礼します。おはようございます。お嬢様」
「おはよう、陽」
アイロンのかけられたブラウスを持って入ってきた
執事の陽。

私の2つ下で14歳で中学3年生。
黒髪で青い目をした少年。

今日の予定を確認してから陽は部屋を出る。
制服に着替えてベットとパジャマを整えてから、
ベット傍にあるベルを鳴らすとすぐに陽は来た。

ドレッサーの椅子を引いて座るように促す。
「いつものでよろしいですか?」
「ええ、お願い」

肩につくくらいの赤茶色の髪をサイド編み込みに
する。
もう日課の三つ編みは手慣れている。
鏡越しに眺めていると陽と目があう。
きょとん目で問いかける。
「どうなさいました?」
「上手くなったなと」
「6年もすれば自然と覚えますよ」
「そうね」

(6年か。)

ー5年前ー
私が12歳の時。
じいやの孫の陽が住み込みで見習いとして執事に
なって一年。
正式な執事になった陽。

それはじいやの引退を意味していた。
「やだ、やめないでじいや」
「ですがお嬢様、」
「わかってるよ。でもじいやとお別れなんて」
わがまま言ったらじいやが困る。

そんなのわかっている。
10年以上、一緒に過ごした人が
いなくなるのは知っていて覚悟していても
寂しい。

「私もずっと渚お嬢様のお側に仕えていたいのですが、老いすぎてしまったこの体ではなにかあっても
お嬢様を守れる自信がないのです」

跪いて私の手を握るじいやの手は骨張っていて
細かった。

「わかった。じいや、今までありがとう」
「お嬢様、私はあなたに仕えることができて
幸せでした。こちらこそありがとうございました。」

じいやと陽は同室だった。
翌日には陽だけの部屋に変わっていた。

そんな思い出に頬が緩む。
「いかがなさいました?」
「いや、見習いの頃は三つ編みできなくてぐずって
たなって」
「そ、そんなこと思い出さないでくださいよ。」
顔を赤くしてピンでとめた。
「できました」
「ありがとう」

部屋を出て食堂に向かう。
「あ、あとお嬢様。いつも申してますが
ベットはそのままでも良いのですよ」
「自分でやらないと気が済まなくて。
それもずっとじいやに言われていたっけ。
じいやは元気?」

「変わらず元気ですよ。
たまに電話でやりとりしています」
「そっか」