さくらの花に、愛を込めて。

__
____…


真っ白な光のなかで、さくら姫は目を覚ましました。
目の前には、小さな小さな女の子が立っています。

さくら「やっと会えた……__あなただったのね。私に語りかけていたのは。」


__”お姫様”。


お姫様「さくら姫。わたしの声に唯一気づいてくれた方。そして…」


お姫様「唯一、理解してくれた方。」


お姫様は、言いました。


お姫様「私は、あのサクラの木を生み出すことになってしまった、”変わり果ててしまったお姫様”が持っていた、”純真無垢な心”です。」


お姫様は続けます。


お姫様「王子様が他の女性と一夜を共にした姿を見てしまったあの日から、私はお姫様の心の奥に閉じ込められてしまいました。

__なぜなら、私がお姫様の心に居座り続けることこそが、お姫様自身を傷つけてしまうから。」


人を一途に思う気持ち。
それは、素敵なものであると同時に、
そう思うことができなくなった自分を、
忌み嫌う原因にもなります。

昔の、一切を疑わずに信じていたあの頃の心と
今の、何も信じられなくなってすさんだ心。

純真無垢な心が、己の心で輝けば輝くほどに、
黒く醜い心の影も濃くなってしまうのです。


お姫様「でも…押し込めておくだけではいけなかったのです。」

お姫様はそう言って、さくら姫を見つめました。

お姫様「あなたは、わたしに言いました。”あなたは一人じゃないわ”と。”私も同じ”だと。」

さくら「……私は、サクラの木が見せた幻の世界で、生まれて初めて黒く、醜い感情を知りました。」

さくら姫は、お姫様の手を取り、続けます。

さくら「その感情を消すことができるのかもわからず、また、どう向き合っていくべきなのかもわからず、涙を流したときもありました。__でも、そんなときに、母に言われたのです。『それでいいのよ』と。」


さくら「それが、人間だから。誰かを愛して、憎んで、ねたんで、そんな感情があるのが当たり前、なのだと知りました。」

さくら姫は、微笑み、言いました。

さくら「だから、まずは、そんな自分を、自分自身でさげすむのではなく、”これでいいのだ”と認めてあげなければいけないと思いました。」

お姫様「…でも。もし、サクラの木の幻が一生解けず、永遠にソラ王子の心が戻ってこなかったとしたら、…それでもあなたは堪えられたのですか?」

お姫様の言葉に、
さくら姫は、目をつぶって、こう言いました。

さくら「私が、一番大切にしたいものを、よく考えてみたのです。そして、気づきました。私は、”私を愛おしいと思ってくれるソラ王子”のことももちろん好きですが、それ以上に、ただ素直に、ソラ王子を愛しているのです。__たとえ、ソラ王子のお気持ちが、私から離れてしまったとしても、その先に…ソラ王子の笑顔があるのであれば、…自分の気持ちの整理には時間がかかるけれど、後悔はしない、と。」

お姫様「……好きな人の幸せを願う…ということ?…」


さくら「昔、何かの童話で読んだことがあります。”愛する人の幸せを愛する力”が何よりも強い、と。本を読んだ当時は、その意味が分かりませんでしたが、今ははっきりとわかります。そして……」

ギュッ__


さくら姫は、
お姫様を抱きしめて、言いました。


さくら「あなたも、私と同じ。ただ、純粋に王子様が大好きだった1人の女の子です。だからこそ、裏切られたと思ったときのショックは大きく、そのことを憎みました。それは、人として当たり前であり、本当は美しい心をお持ちである何よりの証拠なのですよ。」

__トントンッ…

小さな女の子を抱きしめて、
背中を優しくなでるさくら姫。

さくら「長い間……本当に長い間、よく頑張りましたね。もう、大丈夫。」

お姫様「………ッ……」


お姫様は、静かに、静かに
さくら姫の腕の中で涙を流しました。

お姫様「………ありがとう……さくら姫…。」