さくらの花に、愛を込めて。

それからは、
さくら姫の”マリー”としての新しい生活がスタートしました。

侍女の仕事は初めてだったので、
マリーがしてくれていたことを思い出しながら
なんとかその日その日をやり過ごしていました。

そして、

「………ッ」

ソラ王子と、自分ではないさくら姫が
想い合う姿を見て、心を痛める日々が続きました。

忘れよう、気にしないように、と心を奮い立たせても、
辛いという気持ちはなかなか消えてくれませんでした。

そして思うのでした。
”あぁ。あの夢で見たお姫様も、同じような苦しみの日々を送っていたのだ。”と。

人を愛する気持ちというのは、
たとえ取り巻く状況が変わったからといって、
簡単に消えることはなく
ずっと心の奥にあり続けるのだと痛感しました。

その想いが強ければ、強いほどに。____…



ある日の昼下がり。
さくら姫ことマリーは、
姫の日課となっていた庭の散歩に出かけていました。

「見て、マリー!昨日まで咲いてなかった花が咲いたわ…!」

「本当ですね、さくら姫。」

最近ではようやく、
マリーとして自然に会話ができるようになっていました。


すると、

「あ…!ソラ王子…!」

さくら姫がうれしそうに言います。
振り返ると、白馬に乗ったソラ王子が
こちらに向かってきていました。
柔らかい微笑みを浮かべ、
日差しに照らされて輝くその姿は本当に美しく、
おもわず、見とれてしまうほどでした。

「やぁ、さくら姫。ごきげんよう」

ソラ王子は微笑みながら、さくら姫に話しかけます。

「ソラ王子…!本当に柔らかく微笑まれるようになりましたね。思わず見とれてしまいました。」

さくら姫がそう返すと、
ソラ王子は少し赤くなりながら、

「すべてあなたのおかげですよ、さくら姫」

そういってさくら姫の髪にキスを落としました。

その様子を見ていたマリー。
心の中に、黒い感情が湧き出るのを感じました。

”本当は、私が……私がソラ王子の心を解きほぐしたのに……”

その瞬間、マリーはハッとしました。

「……私…なんてことを…」

醜い、黒い感情に飲み込まれるのが、
とても恐ろしく感じたのでした。


_______

__________………


その夜のこと。


”……キロ、…”


___”オキロ…”



誰かに起こされ、マリーとなったさくら姫は目を覚ましました。

「誰…?」

サクラの木「どうだ…?新しい生活のほうは。」

そこには、以前と同様に、あのサクラの木が浮かんでいました。

「どうって……あなた…!どうしてこんなことをするの?」

サクラの木「以前に言っただろう。試させてくれ、と。」

「試すって何を……」

サクラの木「それより、今日はお前に助け舟を出しにきた。」

サクラの木は、真っ赤な花を揺らしてそう言いました。

「助け舟……」

サクラの木「そうだ。…ソラ王子の心を再び手にしたいと思わないか?」

「なんですって……」

さくら姫は、目を見開きました。
もう一度、ソラ王子の心を自分に向けることができるのか、と驚きました。

サクラの木「フフッ…その様子では、ソラ王子の心を失ってとても苦しんでいるようだな…」


サクラの木は嬉しそうに笑いました。

サクラの木「いいか…さくら姫よ。1週間後の今日、わたしがあの2人を、城の外の崖の近くにおびき寄せる。そして、お前はその2人を、崖から突き落とすのだ。」


「……!そんなこと、できるわけありません…!」

サクラの木「なぁに、安心しろ。ソラ王子の命は守り、お前が突き落とした、という記憶も消してやる。そして、お前が崖から落ちる王子を救った、という偽の記憶を埋め込もう。」


__”いいか。1週間後の今日だ。忘れるな…。”

サクラの木は、そう言い残すと、
闇のなかに消えていきました。