3年2組が飼っていたうさぎが消えた!
飼育ゲージの中から、昨日までいたはずのうさぎがいない。
「予告は本当だったんだ!」
「先生ぇ! ぴょん吉がさらわれちゃったよぅ!」
3年2組には奇妙な予告が届いていた。
「3年2組諸君に告ぐ。
3日後、ぴょん吉を誘拐する。
怪盗ウィンディ」
保護者会で大問題となり、児童の遊びだろうと高をくくっていた教員達は対応に追われた。
担任の風間は、対策を講じなかったことを強く咎められた。
予告の時点で校長らに報告していたのに、風間だけが責められるのは理不尽だった。
「警察には届けましたが、うさぎは戻って来るかどうか……。
風間先生、子供達の心のケアをお願いします」
「はい、校長……」
それから3日。
3年2組にまた誘拐予告が届いた。
「3年2組諸君に告ぐ。
沢井正人の表彰状を誘拐する。
怪盗ウィンディ」
表彰状とは、児童の沢井正人が書いた絵が県展で表彰を受けた時の物だ。
児童達が張り出されていた掲示板を見に行った時には、もう表彰状は消えていた。
誘拐予告はそれからも度々届き、3年2組に関わる物が次々になくなっていく。
山科茜の雑巾。
掃除箱の箒。
中田雅の答案用紙。
教室の時計の電池。
怪盗ウィンディについて、児童達も教員達も心当たりが全くなく、また動機も不明で、有効な対策もない。
それでも子供達や教職員、保護者にも責められ、風間は疲れ果てていた。
ついに、恐れていたことが起こる。
「3年2組諸君に告ぐ。
担任の風間もとかを誘拐する。
怪盗ウィンディ」
いよいよターゲットが人になったのだ。
「し……しかし、子供じゃなくてまだよかった。
風間先生、まさかとは思いますが、万が一ということもあるので、今日から自宅で待機して下さい」
「は、はい……」
子供達と教員達は、風間が青い顔をして帰っていくのを見送った。
それが、風間を見た最後となった……。
数週間後、新しい担任がやってきた。
前担任の風間については勿論聞いている。
彼には風間が誘拐された理由がすぐにわかった。
風間が残した申送りノートに刻まれた、筆記の跡。
鉛筆でこすると、現れたのは誘拐予告だった。
誘拐されたのではなく、風間は自ら失踪したのである……。