若い夫婦にかわいい赤んぼうが生まれました。
白く柔らかなおくるみに包まれて、ふくふくと愛らしくとってもよく眠っています。
この子のためにぬいぐるみを買いましょう。
それはいいねと、ふたりは出かけました。
街で評判のぬいぐるみ屋さん。
くま、きりん、ぞう。
みつあみの女の子に、兵隊さん。
どれもこれもかわいくて、なかなか決められません。
赤んぼうそっくりな赤ちゃんのお人形まであります。
旦那さんがいいました。
ごらんよ、このお人形、うちの子にそっくりじゃないかい。
あなた、ちょっと抱いてみて、と奥さんがいいました。
旦那さんが赤ちゃんのお人形を抱きあげると、確かに赤んぼうと大きさから重さまでそっくり。
寝顔やほっぺの感じまでうりふたつでした。
これはなかなか出来のいい、かわいいお人形だよ。
君も抱いてごらんよ、と旦那さんがいいました。
奥さんは、赤んぼうをちょっとだけぬいぐるみの棚において、赤ちゃんのお人形を抱いてみました。
あらあら、ほんとう、まるでうちの子みたい。
ふたりは赤ちゃんのお人形がすっかり気に入ってしまいました。
奥に声をかけますと、愛想のいい店員さんやってきました。
ありがとうございます、奥様、旦那様。
これはまあ、なんと奥様にぴったりよく似合いますこと。
その口ぶりがあんまり気持ちよかったので、奥さんは赤ちゃんの人形を抱いて帰ることにしました。
まあまあ、なんてかわいいんでしょう。
すやすやとよく寝ているよ。
奥さんも旦那さんも、愛らしい赤ちゃんの人形に目を細めながら、大満足で帰っていきました。
そのあと、店員さんはぬいぐるみを元いた場所に戻して整頓をしました。
次のお客様が来たときに、気持ちよくお迎えするためです。
あらあら、ぬいぐるみの棚に赤ちゃんのお人形が。
店員さんは赤ちゃんのお人形を、ゆりかごの中に戻しました。
大きさも重さも顔もそっくりのお人形……。
いいえ、それは置いて行かれた夫婦の赤んぼうでした。
こんにちは、と次のお客様がやってきました。
いらっしゃいませ、今日はなにをお探しですか。
店員さんが愛想よく言いますと、お客様は指さしました。
あのゆりかごの、赤ちゃんのお人形を下さいな。