目の前の机にドサッと多くの書類がつまれた。

積んだ人物はうっすらと微笑んだ。

「仕事よ」

しばらく見つめ合う。

「御意」

マイはそう言って部屋を出た。




一仕事終えたマイは街中を歩いていた。

依頼書をグシャグシャに丸めると、公園のゴミ箱に捨てる。

──あーあ。血って落ちにくいんだよなぁ……

血がついた手を見ながらマイはそう思った。


マイとすれ違った高校生が、なにかに気付いたように立ち止まった。

「圭どしたん?」

「? いや、なんか………血、みたいな……。あの子、怪我してなかった?」

圭は呟いた。

だが、それを聞いていた友人らは気付いてないらしい。

「は? どの子? 見間違いなんじゃねぇの?」

だが、圭は無性に気になってしまった。

「ごめんっ。先行ってて」

「は? 圭!? おい! 圭!」

友人の呼び掛けに一切振り返らず、圭はマイの向かった方向に駆けて行った。



マイは公園の水道で手についた血を洗い落とす。

キュッ、と水を止めるとポケットからハンカチを取り出すと濡れた手を拭いていると、公園の入り口から圭がやってきた。

自分には関係ない、そう思っていると、目が合った。

──? 今、目が合った?

すると、圭はマイに気付き、歩み寄る。

──え、なんかこっち来る?? 誰誰誰? なんで……?

マイは混乱していた。

そりゃ、見知らぬ相手と目が合ったかと思えば近付いてくるだなんて、誰でも混乱するだろう。

そう思っている間にも圭はマイのもとへ近付いてくる。

そして、腕を掴まれた。

「あのっ! 怪我、してませんか!」

唐突に述べられた言葉にマイはさらに混乱した。

「えっと………して、ない……です……」

「あれ……。いや、その、よかったです……」

マイの言葉に、圭はほっとしたように返すと、その場にへたりこんだ。

──こんな人、知らない。なのに………

「見ず知らずなのに、私の怪我を心配して、そんなに疲れるまで走って、ここまで来てくれたの?」

地面に座る圭と目線を合わせるようにしてマイはしゃがんだ。

──わからない。他人のために、どうしてそこまで……

圭は微笑むと、言った。

「あーなんか……。身体が勝手に動いちゃってて……」

自分で言っておいて、「ごめん! 意味分かんないよね!」と呟く圭を見て、マイは自然と笑みがこぼれた。

──意味がわからない……。けど、

「変な人」

圭はマイの笑みに顔を赤らめる。

──わからないけど、根からのいい人なんだろう

マイは圭に背を向けて歩き出す。

──だからこそ……

「じゃあね」

──もう会ってはいけない人

マイは先程の笑顔が嘘かと思うほど恐ろしい顔をしていた。