広いホールが多くの人で埋め尽くされてザワザワと騒がしい。

その中で、マイはひとり呟いた。

「臭い……」

──みんな同じ匂い


そこに、自らの存在を見せつけるかのようにヒールを鳴らしてやってきた女がいた。

女王(クイーン)のご入場だぞ!」

誰かが興奮気味に言った。

彼女は女王である剣崎珠莉だ。

扇状的な体にぴったりの真っ黒のドレスを着て入場してきた珠莉は妖艶に微笑んだ。

歓声があがる。
だが、それも珠莉が口を開くだけでおさまる。

「みんな、今月も集まってくれて嬉しいわ。じゃあいつも通り」

珠莉は紙を取り出し広げた。

「成績を発表するわね」

みなが期待をふくらませる。

「今月のトップは……」

珠莉は間をあけて微笑んだ。

「マイ!!」

ザワッ、とまたもや会場が騒がしくなり、マイに視線が集まる。
マイは感情のない目でそれを聞いている。

「続けてNo.2は北斗!!」

北斗はその結果が当然かのように落ち着いた微笑みを浮かべる。

「さすが北斗様だ。女王のご子息なだけあるな」

北斗は皆の歓声に応えるように手を振る。

「あの2人、ずっとトップ独占してるよな」
「今月で何ヶ月連続?」
「2年間変わってないね」
「2人とも美人なのになー」
「美人は裏が怖いってこのことだよ」

成績発表を聞いていた者たちは好き好きに会話を始める。
それ以降の順序はどうでもいいらしい。

「人を殺しているなんて」

──そう、私は殺し屋だ

今一度行われていたのは、月に一度、毎月月末に行われる私達殺し屋が集まる集会。
成績発表とは、その集会で女王自ら発表される成績。
簡単に言えば、どれだけの数の仕事をこなし、どれだけ人を殺められたか。

殺し屋とは、表に出ないがひとつの仕事だ。
依頼された殺しをターゲットに合う人材が担当し殺める。

一月(ひとつき)に殺めた数、依頼主に指名された回数で成績が決まる。

「マイ」

マイに一人の男───北斗が話しかけてきた。

「おめでとう。今月もトップ、君の勝ちだ。僕はどうやったら君に勝てるのかな」

──剣崎北斗……

北斗はNo.2ではあるが、実力ではマイを超える。
だが、女性を殺す依頼しか受けないため、マイがトップになるのだ。

北斗をマイは一瞥する。

「知らないわ。自分で考えたらどう?」

そして、冷たく言い放ち、横を通り過ぎようとした。