そろそろ商工会に向かうために馬車に戻ろうとしたそのとき、「きゃー!」という悲鳴が聞こえた。リーゼロッテはハッとして振り返る。
 目を凝らすと六頭のヒッポグリフのうち一頭が、商人の言うことを聞かずに暴れている。

「いけない。リーゼロッテ様、早く馬車に」

 アイリスが険しい表情でリーゼロッテの腕を引く。その危機迫る表情に、リーゼロッテもただ事ではないのだと察した。

「ヒッポグリフはパートナーとなる幻獣騎士以外の言うことは聞きません。一度暴れ出すと手に負えないのです」
「え? それじゃああの人たちは──」

 リーゼロッテは思わず立ち止まってヒッポグリフのいたほうを振り返る。ヒッポグリフは自身についている紐を引きちぎり、すぐ近くにいる男性を蹴り飛ばしたところだった。

 そのヒッポグリフがふいにリーゼロッテのほうを向いて、ひとりと一頭の視線が絡み合った。ヒッポグリフが走り出す。

「リーゼロッテ様!」

 アイリスの絶叫するような声が聞こえた。