町を歩くのは楽しい。
 庶民の暮らしぶりを自分の目で確認できるし、屋敷に閉じこもっていては決して出会えないような食べ物や品物を見つけることもできる。

 例えば、今見ている籠バックもそのひとつだ。通常の籠細工に比べて非常に目が細かいうえに柔らかく、しっかりとしたカバンの形状をしている。

 「まあ、上手ね。これは何で作っているの?」
 「ドレイの茎を乾かしたものです」
 「ドレイの茎!」

 ドレイとは、ラフォン領を始めとするイスタールの北部によく見られる植物だ。何度も生えているところを見たことはあったが、それを材料にこんなに繊細な籠が作れるとは知らなかった。

 「これはあなたが作ったの?」
 「はい。村のみんなで作りました」
 「村のみんな……」

 目の前にいる少女は、決して豊かそうには見えなかった。一部が擦り切れたワンピースにぼろぼろの靴。背後には、くたびれたロバが一匹。きっと、この籠細工は貴重な村の収入源なのだろう。

 「これ、いただくわ。みっつ」
 「みっつも? ありがとうございます!」

 少女は嬉しそうに微笑む。硬貨と交換に、リーゼロッテは籠製のミニバックをふたつ受け取った。