「王都の諜報員に、もうひとつ指令を出してくれ」
 「え? 何か不穏な動きでもあるのか?」

 カルロの表情に一瞬で真剣みが帯びる。テオドールは軽く首を横に振った。

 「いや、そういうわけではない。ただ、気になることがあるんだ。リーゼロッテについて、調べてほしい」
 「奥様について? 結婚前に調べただろう? その……、ちょっとばかしやきもちやきだとか奔放だとか──」

 なんとかオブラートに包もうとしているが、要は嫉妬深く身持ちが悪いと言っているのだ。
 その報告についてはテオドールもよく覚えている。報告書の情報とリーゼロッテと護衛騎士の部屋でのやり取りを聞き、テオドールは彼女を毒婦だと断定したのだから。

 「もう一度調べてほしいんだ。できるだけ、彼女と実際に接点があった多くの人間から証言を得てほしい」
 「なんで今更そんなことを調べたいんだ? 何かあったのか?」
 「詳しい話は報告が出てからする。とにかく、彼女と実際に接点があった人からの情報を得たい」
 「わかったよ。指示しておく」

 カルロははいはいと言いたげに肩を竦める。そして、「そういえば」と何かを思い出したように口を開いた。
 「なんか今日は屋敷全体がお祝いムードなのは、どうしてだ? エントランスホールと廊下に祝い花が飾ってあったぞ? もしかして、奥様がご懐妊──」