テオドールは居心地の悪さを感じルカードの隣に腰を下ろした。ルカードは察しがよすぎて、ときどきやりにくい。

 「毒婦のはずの妻が、純潔だった」

 今朝のことを思い返し、テオドールは額に手を当てる。

 夫婦の寝室は、リーゼロッテとテオドールそれぞれの私室から内ドアで繋がる構造になっている。そのため、テオドールの私室にいると寝室の声は聞こえやすい。

 今朝、テオドールは執務室に行き、その後いったん私室に戻った。そのときに、朝の準備に訪れたメイドとリーゼロッテが会話をしているのが聞こえた。

 『あら? 奥様、月のものの乱れですか?』
 『初めてなんだから、まだゆっくり寝ていてくださいませ!』

 というメイドの声。それに対する、うろたえる様なリーゼロッテの声に、テオドールの来訪を喜ぶメイドの声も。
 本当に毒婦で多くの男を寝床に引き込んでいるのならば、リーゼロッテに仕えるメイドがそれを知らないはずがない。だから、あんな会話はしないだろう。

 そこから導き出されることはただひとつ。リーゼロッテは最初から男遊びなどしておらず、純潔だったということだ。

 (どういうことなんだ)

 昨晩、何度も違和感はあった。緊張で固くなった体、一つひとつの動作に戸惑うような表情、まるで初めてのように恥ずかしがる態度。
 だが、リーゼロッテが男にだらしのない毒婦だと信じて疑っていなかったテオドールは、それらを全て彼女の演技だと判断して切り捨てた。