◇ ◇ ◇

 ひゅん、ひゅんと剣を振る音が獣舎の広場に響く。

〈テオ、どうした?〉

 お腹に響くような低い声で尋ねられ、テオドールは剣を振る腕を止める。こちらをじっと見つめているのは、テオドールの相棒であるグリフォンのルカードだ。

 通常の幻獣騎士が乗るヒッポグリフは喋ることができないが、ルカードは幻獣の中でも頭がよく聖獣とも呼ばれるグリフォンだからなのか、テオドールの言葉を理解し、さらに自身もしゃべることができた。

「どうしたとは? いつもと同じだが」

〈同じ? 剣裁きに切れがない。本当にそう思っているなら、腕が落ちたんじゃないか?〉
「なかなか言うね」

 テオドールは顔を顰め、ルカードの首をポンポンと叩いた。ルカードはテオドールに鼻を寄せる。

〈初めての女の匂いがする〉
「お前、よくわかるな?」
〈グリフォンの鼻のよさを舐めるな。甘い匂いだな〉

 ルカードはふんと鼻を鳴らすとテオドールを見つめ、探るように目を眇める。
 テオドールは居心地の悪さを感じルカードの隣に腰を下ろした。ルカードは察しがよすぎて、ときどきやりにくい。