「では、旦那様が整うまでここでお待ちします」
セドリックは壁と背を合わせるように部屋の端に立つと、外出から戻ってきたばかりのテオドールが落ち着くのを待ち始めた。
(珍しいな)
セドリックは先代のときからラフォン辺境伯家に仕える家令だ。とても優秀な彼は、普段ならいったん退室してタイミングを見計らった頃にもう一度訪ねてくる。そのセドリックが『後にしてほしい』と言ったテオドールの言葉を受けてもなお部屋にとどまり続けるのは、よっぽど今伝えたい内容なのだろう。
テオドールは腰に佩いた剣を下ろすと壁の剣用ホルダーにそれを置き、セドリックに向き合った。
「それで、なんの用だ?」
「奥様が、旦那様と直接お話をしたいと」
「放っておけばいい。いつものことだろう。彼女のことはお前に任せると再三にわたって言ったはずだ」
「わかっております。しかし、本日は行かれたほうがよろしいかと」
セドリックの言葉に、テオドールはぴたりと動きを止める。
テオドールがリーゼロッテから会いたいと言われてそれを無視するのは今に始まったことではない。これまで幾度なく繰り返され、テオドールは聞く必要がないと全てを切り捨てて徹底的に彼女を避けた。
セドリックとてそれを知っているはずなのに、なぜ今日はこんな諫言をしてくるのか。
「それはなぜだ?」
「今日が特別な日だからです」
「特別?」
「旦那様と奥様の婚姻届けが受理された日です」
セドリックはまっすぐにテオドールを見つめる。
セドリックは壁と背を合わせるように部屋の端に立つと、外出から戻ってきたばかりのテオドールが落ち着くのを待ち始めた。
(珍しいな)
セドリックは先代のときからラフォン辺境伯家に仕える家令だ。とても優秀な彼は、普段ならいったん退室してタイミングを見計らった頃にもう一度訪ねてくる。そのセドリックが『後にしてほしい』と言ったテオドールの言葉を受けてもなお部屋にとどまり続けるのは、よっぽど今伝えたい内容なのだろう。
テオドールは腰に佩いた剣を下ろすと壁の剣用ホルダーにそれを置き、セドリックに向き合った。
「それで、なんの用だ?」
「奥様が、旦那様と直接お話をしたいと」
「放っておけばいい。いつものことだろう。彼女のことはお前に任せると再三にわたって言ったはずだ」
「わかっております。しかし、本日は行かれたほうがよろしいかと」
セドリックの言葉に、テオドールはぴたりと動きを止める。
テオドールがリーゼロッテから会いたいと言われてそれを無視するのは今に始まったことではない。これまで幾度なく繰り返され、テオドールは聞く必要がないと全てを切り捨てて徹底的に彼女を避けた。
セドリックとてそれを知っているはずなのに、なぜ今日はこんな諫言をしてくるのか。
「それはなぜだ?」
「今日が特別な日だからです」
「特別?」
「旦那様と奥様の婚姻届けが受理された日です」
セドリックはまっすぐにテオドールを見つめる。



