部屋で書類を眺めていたリーゼロッテは、部屋をノックする音で顔を上げた。

「セドリック。よく来てくれたわね」

 ドアの近くに立つ執事に、リーゼロッテは声をかける。

「奥様がお呼びたてとあればいつでも参ります」
「ふふっ、ありがとう」

 リーゼロッテは笑みを零す。

「ねえ、セドリック。今日が何の日か知っている?」
「もちろんでございます」
「私がここに嫁いできた日。二年前の今日、私は形上のラフォン辺境伯夫人になった」

 リーゼロッテの〝二年前〟〝形上の〟という単語を強調した言い方に、セドリックは眉を寄せる。
 ここに嫁いで早二年。多くの白髪が混じり始めたセドリックの髪からも、月日の流れを感じる。

「旦那様は今日、屋敷にいらっしゃる?」
「はい」
「では、お会いしたいとお伝えしてくれる? とても重要なお願いがあるので、絶対に来てほしいと」
「それは、今日が奥様が嫁がれてきてから二年ということと関係があることでしょうか?」
「察しがいいわね。さすがはセドリック」

 リーゼロッテはふふっと笑う。