その日の夕方到着したリーゼロッテ様は、今まで出会ったどの女性よりも美しい人だった。
 赤みを帯びた金髪を片側に垂らし、その髪には金細工の髪飾りが飾られている。耳と首元にも金細工の飾りが輝いていたが、彼女の着ているベージュ色のドレスと上手く馴染んで控えめな印象を受けた。

 事前の情報からリーゼロッテ様はきっと使用人達のことなど気にもかけない傲慢な態度を取るだろうと予想していた。けれど、意外なことにリーゼロッテ様は到着時に出迎えた使用人たちに声をかけ、微笑みかけてきた。そして、改めて部屋の前でセドリックに紹介されたアイリスにも笑顔を向けてきた。

(本当にこの人が、悪女なの?)

 アイリスは混乱する。第一印象は、悪女とはかけ離れている。
 そして、違和感はその少しあとに確信へと変わる。

「お掃除ありがとう、アイリス」

 蛇がいて怯えていたくせに、リーゼロッテ様はこちらの非を一切糾弾せず、さらには笑顔を向けて掃除へのお礼を言ってきた。そして、王都から連れてきた侍女のライラ様の様子を見るに、これがリーゼロッテ様の普段からの姿に違いないと思った。

 最初は猫をかぶっているのかと思ったけれど、翌日以降もリーゼロッテ様は優しく上品なままだった。

(なんであんな変な噂が立ったのかしら?)

 田舎育ちのアイリスには、王都の出来事はよくわからない。けれど、はっきりとわかったことがひとつだけある。

(リーゼロッテ様は悪女でも毒婦でもないわ)

 アイリスはラフォン辺境伯家に美しく優しい花嫁が来たことを喜び、誠心誠意尽くすことを誓ったのだった。