嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉

 屋敷に帰ってくることはあるのだから、夜寝室に顔を出すくらいはできるはず。それをしないのは、リーゼロッテに会うつもりがないからだろう。

「困ったわ」

 ──白い結婚。

 それが今のリーゼロッテとテオドールの関係を表す、最も適切な言葉だろう。向こうも合意して結婚したのだから、正直拒まれることがあるとは思っていなかった。

(もしかして旦那様、本当は別の方と結婚したいと思っていらしたのかしら?)

 ところが、その女性と結婚する前にリーゼロッテとの縁談が来てしまった。テオドールは王室が縁を取り持った縁談を断ることもできず、泣く泣くリーゼロッテと結婚した。
そう考えれば、この仕打ちも納得がいく。

部屋に戻ったリーゼロッテは、紅茶を入れていたアイリスに声をかける。

「ねえ、アイリス」
「はい。奥様。いかがなさいましたか?」

 リーゼロッテに気づいたアイリスも立ち止まり、両手をへその下あたりで重ねてお辞儀をする。

「あの……、旦那様ってどなたか懇意にしている女性でもいるのかしら?」
「はい?」
「えっと、毎晩どこで過ごされているのかと思って」

 おずおずと尋ねると、アイリスはすぐにその質問の意図に気づいたようだ。毎日シーツの交換をしていれば、夫婦の寝室をテオドールが訪ねていないことは一目瞭然なのだから当たり前だろう。

「私にはわかりかねます」

 数秒の沈黙ののち、アイリスは困ったような顔をする。