「奥様、いかがなさいましたか?」
「今、テオドール様はどちらに?」
「幻獣騎士団の訓練視察のため、北訓練場にいらっしゃいます」
「北訓練場ね。ありがとう」

 リーゼロッテはお礼を言うと、早速北訓練場に向かった。
 ラフォン辺境伯領に来てからというもの、リーゼロッテは早くこの地に慣れようとアイリスに案内してもらい、主要な施設の名前や場所を一通り暗記した。北訓練場も、行ったことはないが場所は頭の中に入っている。

 その三十分後。リーゼロッテは高い壁に囲まれた施設の前にいた。

「えっと……、ここよね?」

 中からはカンカンと金属がぶつかり合うような音が聞こえるので、打ち合いの稽古でもしているのかもしれない。

(よし、行きましょう!)

 リーゼロッテは入口へと向かう。しかし、そこで呼び止められた。

「お嬢さん、ここは訓練場だから立ち入り禁止だぜ?」

 進入を制止しようと入口の前に立ちふさがったのは、リーゼロッテより少し年上の若い男だった。茶色い髪に茶色い目をした、体格の良い凛々しい青年だ。

「あんた美人だな。名前はなんて言うんだ?」

 男は口元に少し笑みを湛え、リーゼロッテを見下ろす。その甘い微笑み方から判断して、女慣れしていそうな印象を受けた。

「ごきげんよう。わたくしはテオドール様の妻のリーゼロッテです。夫に会いに来ました」
「え? テオの?」

 男は驚いたように大きく目を見開き、「少々お待ちください」と焦ったように奥へと消えた。その様子に、テオドールはここにいるのだとホッとする。