カルロたちのいる娼館へと行くと、楽し気に吞んでいた部下達が一瞬で水を打ったように静まり返る。

「テ、テオ! お前、どうしたんだ⁉」

 奥に座っていた赤ら顔のカルロが、びっくりして飛んできた。

「気が変わったから、こちらに来た」
「気が変わったって、お前今日は──」

 言いかけた言葉を、カルロはハッとしたように呑みこむ。そして、かわいそうなものでも見るような目でテオドールを見つめた。

「わかったぞ。噂は全くのはったりで、新妻に会ってみたらちっとも美人じゃなかったんだな? そうだろ⁉ わかるぜ。俺も昔、ものすごい美人画を見せられてワクワクしながら会ってみたら──」

 カルロは饒舌に自分の体験談を話し始めると、娼館の主人に「おい。テオに一番の美人を頼む!」と叫ぶ。間もなくテオドールの横に座った女は、店で一番人気というのが頷ける艶めかしい美女だった。

 自分の肩にしな垂れかかる女から、甘い香りが漂う。しばらく食事と酒を楽しんでいたが、ふいに女に手を取られ、柔らかな肌に導かれた。

「上に休憩しに行きませんか?」

 耳元でささやかれた言葉は、夜の誘いだ。

(あの女も今頃護衛の男とお楽しみなのだろうか)

 ふと、リーゼロッテの後ろ姿が思い浮かび、無性に苛立ちを感じた。 

「いいだろう。行こう」

 テオドールは無表情のまま頷くと、女の手首を握ったまますっくと立ちあがった。