「テオドール様がお戻りになっていなくてちょうどよかったわ」
心底ホッとしたように呟かれたリーゼロッテの言葉を聞き、テオドールはスーッと気持ちが冷えていくのを感じた。
(なるほど。俺の妻は間違いなく毒婦のようだ)
この屋敷で暮らし始めた初日に、早くも護衛を陥落して夫の不在をいいことに不義を働こうとしているとは。
(大した度胸だな)
テオドールはぎゅっと拳を握ると、リーゼロッテに声をかけることなくその場を立ち去る。
そうして執務室に戻ると、セドリックが部屋の前に立っていた。
「旦那様。そろそろ晩餐の準備が整います。奥様のお迎えは旦那様がなさいますか?」
何も知らない家令は呑気にセドリックに問いかける。
「……気が変わった。カルロたちが町で宴会をしているはずだから、そちらに行く」
「旦那様?」
セドリックはいぶかし気な顔で何かを言いかけたが、テオドールはそれを無視してその場をあとにした。



