嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉

 ライラはリーゼロッテ付きの侍女だが、王都にいる騎士の恋人と婚約している。愛し合うふたりを物理的に引き離すことは気が引けるので、ラフォン領まで送り届けてもらったら、そのあとは王都に戻ってもらうつもりだ。
 リーゼロッテがラフォン辺境伯に嫁ぐと決まったとき、ライラは笑顔で『お供します』と言ってくれた。本当は嫌なはずなのに、ひとり嫁ぐリーゼロッテのことを思い、そう言ってくれたのだ。

(その気持ちだけで、十分だわ)

 大切な存在である彼女には、幸せになってもらいたい。

(本当に、よいお方だといいな)

 リーゼロッテはまた、車窓から外を眺める。いつの間にか、周囲は畑も何もない荒れ地に変わっている。村を抜けたのだ。

 しばらく単調な揺れが続いていたが、不意に馬車ががくんと揺れた。

 いつの間にかうとうとしていたリーゼロッテはハッとして、目を覚ます。窓の外は薄暗くなっており、すぐ近くに煌々と灯火が燃えているのが見える。オレンジ色の明かりに照らされ、周囲をたくさんの人が往来しているのが見えた。皆、黒い軍服を着ている。

「お嬢様、ラフォン辺境伯の屋敷に到着いたしました」

 近づいてきて窓越しに話しかけてきたのは、屋敷から連れてきた護衛だ。

「わかったわ。ありがとう」

 リーゼロッテは護衛にお礼を言う。それとほぼ同時に、馬車の扉が外から開かれた。

(すごい……。まるで要塞みたい)